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東急子ども応援プログラム

リーダーインタビュー

2023.11.20

リーダーインタビュー Vol.13

びじっと・離婚と子ども問題支援センター古市 理奈さん

子どもたちに「自分は愛されている」という実感を。
10年後の未来を見据え、離れて暮らす親子の絆づくりを支援

厚生労働省によれば、令和2年の離婚件数は19万3,253件で、そのうち57%にあたる11万1,335件が親権を行う必要のある未成年の子どもがいる家庭(※)。こうした両親の別居や離婚によって父または母と離れて暮らすことになった子どもの多くが、離れて住む親に会えていないという現実があります。そんな子どもたちに、「自分は愛されている」という実感を与えたいという思いから、面会交流支援団体を立ち上げた古市理奈さん。千葉県長生村にあるお寺の副住職を務めながら、団体の代表理事としても活動する古市さんに、活動への思いや、これからの展望についてお話を伺いました。

※ 出典:厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計の概況」

はじめに「びじっと・離婚と子ども問題支援センター」(以下、びじっと)について教えてください。

離婚が親子の別れにならぬよう、面会交流支援で絆をつなぐ

2007年の設立時から活動の大きな柱となっているのは、「面会交流支援」です。面会交流とは、離婚や別居によって子どもと離れて暮らしている親が、一定の取り決めのもと、定期的に子どもと会って交流することをいいます。

面会交流は、養育費と共に民法第766条に明文化されていますが、これらのルールを決めずに離婚をしたり、決めていても守られないケースも多く、子どもと離れて暮らす親(別居親)が面会できずにいることは少なくありません。

私たちは、東京・神奈川・埼玉を中心に、こうした親子の面会交流を支援しています。具体的には、両親の間に入って日時や場所を調整し、希望があれば、お子さんの受け渡しや、交流の間の付き添いまで行います。コロナ禍を経て、オンラインでの面会交流もできるようになりました。

また、2020年に民間ADR(裁判外紛争解決手続)事業者としての認証を受け、「ADRくりあ(父母間調停)」という課題解決支援も行っています。公正中立な立場の第三者である私たちと弁護士が調停人となることで、家庭裁判所に行くことなく、面会交流条件や離婚条件の話し合いができ、親にとっても子どもにとっても最善の条件で面会交流をサポートすることが可能となりました。
びじっとが目指すのは「面会交流が当たり前の社会」

設立には、どんな思いがあったのでしょうか。

寺に育った僧侶としての環境に後押しされて

「離婚は夫婦の別れであって、親子の別れになってはいけません」と語る古市さん

私は小さなお寺の娘として育ちました。かつてお寺は、その地域の人々の心のよりどころのような存在で、もめ事を治めたり、時には家庭の問題を解決したりする、相談所のような役割も担っていました。びじっとを設立した当時、まだ出家はしていませんでしたが、身近なところに離婚家庭があったことを機に面会交流支援を行う団体がほとんどないことを知り、それなら私がつくろうと考えました。僧侶として学んでいたことが、その後押しになったように思います。

活動の主軸に置いているのは「子ども」です。離婚の当事者である両親にも寄り添いますが、特に面会交流支援においては「子どもたちがどう思っているか」を大切にしています。

両親の別居・離婚によって、ある日突然、子どもの前から片方の親の存在が消えてしまいます。会えないため、生死もはっきりしないし、あいさつなしで離れ離れになり、気持ちの収めどころが分からないという「さよならのない別れ」を子どもは体験します。
そして両親もまた、愛し合って結婚したはずなのに、いつの間にか相手に対しての信頼感が失われて、不仲となり別居となる。「相手は存在するけれど、自分が好きだと思っていた相手とは変わってしまった」という「別れのないさよなら」を体験していますので、お互いに葛藤が高くなりやすいのです。このような「対象を失ったかどうかがはっきりしない」状態は「あいまいな喪失」といわれます。
両親の離婚は子どものせいではありません。子どもには、自分は両親に愛されているのだという実感を持ちながら成長してもらえればと願っています。その思いは今も変わりません。

活動理念は「10年先の子どもの未来を見据え 今を支援する」

1989年に国連総会で採択された子どもの権利条約では、子どもが親や家族と一緒に生活できる権利が定められています。海外の調査では、両親と一緒に暮らす子どもと比較して、離婚家庭の子どもは自己肯定感が低く、社会性や感情コントロール、学業成績などの面でも課題を抱える場合が多いことも報告されていますが、面会交流を通して父母双方が子どもの養育に関わり続けることで、離婚や別居による子どもへの影響を最低限に抑えられることも分かっています。

古市さんが副住職を務める「眞浄山 大法寺」。元和7(1621)年創立と古い歴史を持つ

実際の活動で印象に残っている出来事があるのですが、初めての面会交流で、お父さんにゴミを投げつけた2歳の子どもがいました。お父さんが抱くと泣くので、あわてて離すと、ケロッとした顔をして逃げる。嘘泣きです。その子は離れて暮らす親に対して「自分は捨てられた」という怒りがあったのですね。そこでお父さんに、子どもの怒りを受け止めて、1年間会わなかったことを謝ってみては? と提案しました。親にしてみれば「会えなかった」でも、子どもにしてみれば「会いに来てくれなかった」なんですよと。お父さんがその場で子どもに向かって真剣に謝罪をすると、子どもの態度も軟化し、その後は親子で一緒に遊ぶようになりました。このように親子の縁を結び直すことができた、と感じる瞬間がこれまでにもたくさんありました。

片方の親と離れて暮らすという喪失感を抱く子どもの気持ちに寄り添い、ケアをしながら、それぞれの親と親密な時間を共有していくと、子どもは親と新しい関係性を築きながら、より豊かな人生を目指して成長していくことができます。私たちが第三者として関わり、子どもの権利を守ることは、その子の「今」だけでなく、5年後、10年後にも続いていく支援です。

活動を続ける中で、法律家やカウンセラーのような資格を持っていないとサポートできることに限界があることを感じ、私は30代で出家をすることを決心しました。僧侶というものは昔から、よろずの相談を受ける立場ですので、弁護士ではなくても、また、カウンセラーの資格がなくても、困っている人々の話を聴き、こんがらがった糸をほどくがごとく問題解決へと導けるよう努めています。出家をしたことで、びじっととしての活動の幅も広がりました。

面会交流の置かれている現状から、課題として考えられることはありますか。

面会交流の認知度を高め、支援につながりやすい社会に

活動対象地域である横浜市、川崎市では、子どもを持つ離婚家庭のうち、53.8%の子どもたちが離れて暮らす親に会えていないという現実があります。その背景には、離婚後の親同士の関係性があると思います。面会交流では、お互いの協力、歩み寄りが必要不可欠ですが、相手と関わりたくない、会いたくないという思いが強いほど、子どもの面会交流の妨げになりやすいと感じています。

一方で、面会交流は「子どものため」に行っているという親が多いことも、私たちの利用者アンケートから見えてきました。子どもの気持ちを考え、より良く育つ環境として面会交流が必要であることの認知が、少しずつ広がってきていることが伺えます。

面会交流を行う理由は「子どものため」が同居・別居を問わず多い(びじっと利用者アンケート調査結果(2023)より

とはいえ、まだまだ親と会えていない子どもたちは多いのです。「面会交流」という言葉の認知度を高め、各自治体での実態調査や重要性の理解が進むことで、支援につながりやすい社会をつくっていく必要があります。
そのための第一歩として、私たちは東急子ども応援プログラムの助成を受け、神奈川の面会交流総合相談窓口「ペアレントタイムかながわ」を立ち上げました。びじっとを含む3団体でタッグを組み、面会交流の相談だけでなく、情報提供や離婚前後の親への支援なども行っています。

支援につながっても、ずるずると何年にもわたって同じサポートを受け続けているケースが見られることも問題です。本来、子どもの成長や親との関係性の変化に合わせて支援の形もステップアップしていくべきもの。支援を卒業して、自分たちなりの親子の在り方をつくっていくのが理想です。そのためのプログラムの開発にも、今取り組んでいます。

今後の展望を聞かせてください。

未成年者から高齢者まで、行き場を失いがちな人の居場所づくりを

私は普段スタッフに、「びじっとの仕事は菩薩行」と伝えています。菩薩行とは自分ではなく、他人のために行動すること。今のびじっとには、その精神を理解してくれるスタッフが集まっています。ですが設立から17年目を迎え、そろそろ世代交代の時期が近づいているとも感じています。今後もびじっとが永続的に活動を続けていくためには、人材育成も急務です。現場の支援スタッフと共に、団体の中核を担える人材も育てなければいけないので、養成講座プログラムの開発も必要です。

17年という時間は、立ち上げ当初に支援した子どもが1歳だったなら、その子が18歳になるということ。そうやってここで支援を受けた子どもたちが大人になり、いつか支援する側として戻ってきてくれたら、こんなにうれしいことはありません。

これは私の個人的な構想ですが、いずれ若年層の妊産婦の居場所から終末期の看取りまでを行う「生老病死(しょうろうびょうし)トータルサポートケアハウス」もつくりたいのです。行き場を失ってしまう子どもや高齢者が一人でもいなくなるといい。そして最終的には、びじっとにドッキングさせていきたいと思っています。これはきっと、私の最後のご奉仕ですね。

一般社団法人 びじっと・離婚と子ども問題支援センター 代表理事古市 理奈(ふるいち・りな)さん

1971年生まれ、東京都出身。2007年に「NPOびじっと・離婚と子ども問題支援センター」を設立し2014年に法人化、代表理事に就任。離婚により別居する親子の面会交流を支援している。2011年、お坊さんとなるため身延山久遠寺の信行道場を修了し、日蓮宗の僧侶に。現在、千葉県長生村にある眞浄山 大法寺の副住職を務めている。

びじっと・離婚と子ども問題支援センター

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