2023.06.30
リーダーインタビュー Vol.11
YUMEプラス関口 清斗さん
目指すのは、子どもたち自身がつくりだす明るい未来。
「夢(YUME)」を原動力に社会課題へ挑む若きリーダー
不登校や発達障がい、学校や家庭でさまざまな悩みを抱える子どもたち―― 。その支援をしたいという思いから、大田区・大森を拠点に活動する「YUMEプラス」では、子ども・若者たちが夢を持ち、その夢に挑戦できる環境づくりに取り組んでいます。団体を率いるのは、設立当時17歳、現在も現役の学生という若きリーダー・関口清斗さん。団体設立に至った経緯や活動に懸ける思い、さらに「やりたいことがたくさんある」という今後の展望について語っていただきました。
はじめに「YUMEプラス」について教えてください。
社会の隙間からこぼれ落ちてしまいそうな人たちのセーフティーネット
YUMEプラスは「すべての人に夢と冒険を」を理念に活動しています。“すべての人”とは、小さいお子さんから、ご高齢の方までのこと。夢をしっかり持つことは年齢に関係なく、人間にとって大事なのでは、という思いで、設立当時にこの理念を掲げました。
活動としては、父がやっている空手道場を事業継承した「空手道教室」の運営、子どもたちの居場所支援事業と不登校児の支援、大田区の(仮称)初期総合福祉相談支援センターとしての相談業務などを行っています。
2022年度に東急子ども応援プログラムの助成も受けた「ジェネラルサポート“ヤングモア”」は、子どもや若者の悩みに対するSNSの相談窓口です。コロナ禍の影響でオフラインでの面談に制約が多かったことに加え、匿名で相談できるというSNSの利点も生かせるのではと、毎週時間を決めて、1回30分を目安に相談に応じています。相談は匿名で相手が見えないということもあるため、悩みの解決を目標にせず、“話をすることで、自分の気持ちや考えを整理するお供をする”ということに重きを置くようにしています。
活動の幅が広いので、よく「YUMEプラスはコレ」というものがないのでは、と言われることもありますが、子育て分野の団体だとか、発達障がい支援団体だとか、はっきり決めていないのは、社会の隙間から落ちてしまう人たちのセーフティーネットでありたいと思っているからなんです。枠組みをはっきり決めればさまざまな助成も受けられて、活動もしやすくはなりますが、その枠にはまらなければ対象外になってしまう。そういったケースをできるだけつくらず、多くの人を支援できたらと思っています。
YUMEプラスを立ち上げたのは17歳の時。どういった経緯だったのでしょうか。
夢を持たない子どもたちが、夢を持てる社会を目指して
僕は元々芸能活動をしていて、中学1年生くらいからミュージカルを作る舞台演出家・プロデューサーになりたいと思っていました。出演する側ではなく創る側になりたい、自分の創った舞台が誰かの人生の糧になったらいいな、と。友人にもずっと「俺ニューヨークに行くから」と言っていたくらいです。でもある日、周りの友人がどんな夢を持っているかを聞いてみたところ、「夢がない」と返ってきたことに驚いて。その時に、夢を持てないのは子ども自身の問題ではなくて、大人や社会の問題なのではと思ったのが、一番のきっかけでした。
なぜ社会の問題だと思ったかといえば、それは僕自身が、なりたい夢をたくさん話す子どもで、夢をたくさん持てるその性格というのは、育った環境が影響しているのではと気付いたからなんです。父も母も、例えば僕が「獣医になりたい!」と言った際には、「観察力があるから向いてるよ、いいじゃん」と。「イルカのトレーナーになりたい」と言ったときには、トレーナーが使う笛やえさ袋を一緒に作ってくれました。僕の抱く夢を決して否定することがなかったんです。また、幼少の頃、他の子があまり見ない部分を観察しているという観察力の鋭さを、子役の経験に生かすきっかけをつくってくれたのも母でした。
何でも話す隠し事がない子どもであったと思いますし、両親は常に子どもたちと対等でいてくれました。そんな中で僕たち3兄弟は自己肯定感が高く、それぞれの道で自分のやりたいことを見つけ、夢を持ってきたので、夢を持てない子どもたちがいるのは、そういった環境を与えられないことに問題があるのではないか、と考えるようになったんです。
そんな社会を変えたい、子どもたちが夢を持てるようサポートする活動をしたいと両親に話したときも、「じゃあやってみなさい」と背中を押してくれて、YUMEプラスを設立しました。
芸能から福祉の分野へ。まったく違うことを始めたように見えますよね。でも、誰かの人生が少し豊かになるようにお手伝いさせていただくことや、子どもたちが夢を見つけられるようサポートすることは、舞台芸術を通して誰かに夢を与える・プロデュースする仕事と、根っこは結びついている気がします。
団体名には、「子どもたちに夢をプラスする。夢を持つことで人生にプラスの材料が増えるということに、子どもたちが気付くきっかけをつくる」という思いを込めました。地元の同級生たちと一緒に活動していますが、ただ学生が集まってボランティアをするのではなく、しっかりとした組織として支援活動をすることで、今までにない形で、社会に新しい風を起こしたいと思っています。
世代が近い立場で、子どもたちと接する際に心掛けていることはありますか。
子どもたちの興味を否定せず、夢の幅を広げるお手伝いを
僕らは子どもたちの年齢に近いので、子どもたちから見れば、ちょっと上のお兄さん・お姉さんという存在で接しやすいというメリットがある半面、近すぎて悩みを相談しにくいとも言われます。でも今、子どもたちが受けている教育を同じように受けてきたからこそ見えること、気付けることもあります。
人にはそれぞれ、その人ならではの強みといえるものが絶対にあって、そこを伸ばすことが成功体験につながることは、みんな頭では分かっているのに、その応援体制がまだまだ日本の社会には足りていませんよね。
多様性を尊重するといわれるようになりましたが、「苦手なことはやらなくていい。苦手なことは排除すればいい」というのもちょっと違うように感じます。それは、本当に子どもたちのためになるのか。提供する大人の自己満足でしかないのではないか、と思うんです。
僕は勉強が苦手でしたが、学校で教わったことは勉強以外にもたくさんあるし、勉強が嫌いなら学校に行かなくてもいい、とは思わない。苦手なものはあってもいいけれど、必ず何かしら自分の存在価値はあります。でもそれはいろいろな経験を通して、自分で見つけなければいけないこと。大人がレールを敷いてしまうと、そのレールの上しか走れなくなって、見える世界が狭まることを僕たちは体感しているので、その弊害を社会に伝えていくことも、僕たちだからできることの一つ。夢の幅はさまざまな世界を知ることで広がっていくはずなので、そのお手伝いをしたいと思っています。
今後の展望を聞かせてください。
子どもたち自身が生きたいと思える社会を、自分たちでつくり出せるように
子どもたちがやりたいことに挑戦できる社会にしていくのが目標です。大人が未来をつくるのではなくて、子どもたちが自分で未来をつくることを大事にしたい。若者の政治への無関心や投票率の低さも問題になっていますが、大人や政治家がつくる社会へと子どもたちが向かうのではなく、子どもたち自身が生きたい、目指したい社会を自分たちでつくっていけるように、その力を育むサポートができる会社を目指したいですね。
他にも、これからやりたいことは山ほどあります。今後の展望の一つとして、介護支援サービスを展開していく予定です。介護を提供する側にも生活があるので、そこで働く人が豊かでないと、支援の質は上げられません。職員を単なる組織の中の一人として捉えるのではなく、一人ひとりに社会的価値があり、だからここで働いていると思える組織づくりをこれからは大切にしていきたいと思っています。
これまでもたくさんの方にお力添えいただいたおかげで、活動をしてくることができました。今、共に活動している学生ボランティアの主メンバーは地元の同級生で、お互いを尊重し合える本当にいい仲間たちです。今通っている学校も、専攻している学問も、卒業後の進路もいろいろですが、「それぞれの場所で修行して、いつかまた集まろう」「いつかまた戻ってきて力を貸してほしい」とみんなに伝えています。10年後かもしれないし、30年後かもしれないけれど、それも夢の一つ。いろいろな修行を重ねた仲間がもう一度集まったら、それこそ最強ですよね。
NPO法人 YUMEプラス 理事長関口 清斗(せきぐち・きよと)さん
2001年4月生まれの現役専門学校生。2019年に17歳でYUMEプラスを設立し、理事長に就任。子どもや若者の居場所づくりを中心に、子どもから高齢者福祉支援まで幅広く事業を展開している。10歳の時に子役デビューした芸能活動では、映画や歌舞伎などさまざまな舞台を経験。現在、映像のフリーランスの構成作家・総合演出家としても活動を続けている。