2023.02.02
リーダーインタビュー Vol.9
特別対談:「あおば学校支援ネットワーク」×「ちいき未来」
子どもたちのワクワク体験を生きる力に。
「働く体験」+「表現する楽しさ」で子どもたちの学びを促す
子どもたちと地域社会をつなげることで、子どもの成長とまちづくりを叶える——— 。そんな志を共有した2つの団体、「あおば学校支援ネットワーク」と「ちいき未来」がコラボレーションを実現しました。2022年度東急子ども応援プログラムの採択団体でもある両者が共に活動することになった経緯やその内容について、団体を代表するお二人にお話を伺いました。
写真左:あおば学校支援ネットワーク・竹本 靖代さん
写真右:ちいき未来・森 康祐さん
はじめに、お二人が所属されている「あおば学校支援ネットワーク」、「ちいき未来」について、教えてください。
子どもの成長につながる「わくわく」を提供
竹本さん:「あおば学校支援ネットワーク」は、2005年に横浜市青葉区で設立しました。学校教育、療育、保育、地域活動など、子どもの成長に関わるさまざまな場面に必要なスキルを持つメンバーが集まり、子どもも大人も成長する機会づくりと応援をしています。モットーは“わくわくする活動”。学校支援活動と並行して、異世代が集まっておばけやしきをつくったり、区役所に段ボール箱でまちをつくり防災キャンプをするなど、まちづくりや子どもたちの成長につながる楽しいイベントを企画・運営しています。
映像制作を通して子どもたちが社会とつながる力を育てる
森さん:「ちいき未来」は、横浜市在住・在学の小学生~中学生を対象に、「キッズディレクター」という映像制作の基本を学ぶワークショップを開催しています。映像の基本構成や撮影方法、編集作業からSNSの配信まで、デジタルコンテンツをツールに、子どもたちが社会とつながり、自己肯定感を高めて社会に対応できる力を養うことを目指しています。また、団体の活動として、市民や青少年に向けた地域コミュニティーづくりなども行っています。
今回、コラボレーションでどのような活動を実現されたのでしょうか。
“働く体験”を通して地域とつながり、その体験を動画で発信
竹本さん:私たちは、他者との関わりから学んだことを子どもたち自身の成長につなげる「青葉台みらいクラブ」という取り組みで、東急子ども応援プログラムの助成を受けていますが、今回コラボレーションが実現したのは、そのコンテンツの一つである「子ども商店会」です。この活動に参加する子どもたちは、事前ワークで働くことについて学び、商店街を歩いたりゲームとして模擬経営をした後、実際にお店で働かせていただき、お店の方にインタビューを行います。さらに自分たちが体験し、学んだことをさまざまな方法で発信します。模造紙にまとめたり、リーフレットにして配布したりなど、発信の仕方はいろいろありますが、映像でやってみようということになり、映像制作の部分を森さんにご協力いただきました。
森さん:初回の講習では撮影方法などを学び、その後実際に撮影をしてもらって、次の講習で撮影してきた動画を使って編集作業を行いました。東急子ども応援プログラムの助成を受けてiPadを導入できたので、撮影や編集は全てiPadを使用しました。横浜市の子どもたちはGIGAスクール構想の下、学校でiPadを使っていることもあり、操作方法もよく知っていて、とてもスムーズでしたね。撮影してきた動画を60秒に編集して、その日のうちにグループごとに発表会まで行いました。
竹本さん:当日は子どもたちだけで発表会を行い、後日、保護者や一般の方も視聴できる発表会も開催しました。一つのお店について5分程度の発表、その中で子どもたちがつくった60秒の動画も流す、という内容だったのですが、保護者の皆さんがビデオカメラを構えて楽しみにしてくださって、とても盛況でした。
実際に子どもたちが制作した動画をご覧ください。
コラボレーションが実現したきっかけは?
子どもたちにより良い体験を届けたい。互いの強みを組み合わせ、その思いを実現
森さん:僕らは映像制作の部分で、これまでにいろいろな団体とコラボをしてきたこともあり、子どもたちに関わる活動をされている団体と、何か一緒にできないかなと考えていて。そういった団体のリストを眺めていたときに、竹本さんたちの活動を見つけたのがきっかけです。地域と深くつながりをつくって、これだけ多くの子どもたちを集めて活動していらっしゃることにも驚かされて、「僕らはこんな活動をしているので、何かあったらぜひ」とお話をさせていただきました。
初めてお会いしたのは横浜市市民協働推進センターでしたよね。お電話したらすぐに、快く時間をつくってくださり、竹本さんのそんなフットワークの軽さも素晴らしくて、今回の件も「それは面白いからぜひやらせてください」と即答しました。
竹本さん:自分たちの団体だけでここまで内容を充実させることは難しいですし、これまでもいろいろな方の力をお借りしてきたからこそ、良いコンテンツをつくることができたと思っているんです。プログラムをつくる際には、誰にお力添えいただこうかと、つながりを頼ることも少なくありませんが、今回は森さんからつながりに来てくださって。お会いしたタイミングですぐに話がまとまったわけではありませんでしたが、今年度、動画での発信をするとなったときに、「そういえばプロがいた!」とスムーズに協力をお願いすることができました。
活動中や、その後の子どもたちの様子はいかがでしたか?
限られた時間の中で集中し、楽しみながら取り組んでいた子どもたち
竹本さん:子どもたちは“働く”ことに、とても前向きに楽しく参加してくれました。デジタル機器を使いこなしていく世代でもあるので、こういった技術を入れ込めたのも良かったですね。活動を通して地域とのつながりもたくさん生まれているので、プログラム自体としても大成功でした。
例えばソーセージのお店で働く体験をした子は、お土産にソーセージを持たせてもらえたのですが、後日保護者と一緒にお礼に行ったことで、お店とのつながりが深まったと聞きました。また当初、自分の希望とは異なるお店で働くことになり、テンションが少し下がってしまった子がいたのですが、実際に行ってみたら、すごく楽しくて本当に良かったと。後日、お客さんとしてそのお店に行ったところ、店長さんやスタッフさんがみんな覚えてくれていたことで、さらに良い思い出ができた、とご報告いただきました。
森さん:動画講習では積極的な子が多くて、話もよく聞いてくれるし、反応が良かったのも印象的でしたね。そもそも子どもたちがつくる動画はとても面白いんですよ。何十年も続けているのはその面白さ故です。特に小学生のつくるものは、大人と視点が違うのはもちろんですが、衒い(てらい)がないところが、動画としてすごくいい。今回のインタビュー動画なんて、必見ですよ。しかも、素材を見て仕上げるまで2時間足らずと、かなり短時間で編集しているのも実はすごいこと。子どもたちは2~3人のグループで、動画の撮影やインタビュー、編集までこなしているのですが、撮影当日に立ち合えなかった子もいる中、初見の20分程度の動画を見事に60秒に編集しました。僕らプロでも大変なことですが、集中力を高め、仕上げるのを見て、表現することの楽しさを味わってもらえたかなと思っています。
子どもたちだけでなく、それを見つめる大人にとっても成長のきっかけに
竹本さん:森さんがやっていらっしゃるコンテンツは、子どもにとっても「できた!」という成功体験につながりますが、特にいいのは「親世代ができないことを子どもができる」ということだと思うんです。動画の編集をできない保護者も多いので、自分の知らない、やったことのないことを子どもたちができるということは、例えばたし算ができるようになるのとはちょっと違って、「この子はすごい」と心から思えることなんですよね。だからその子を認める表情や声掛けにも、「えっ、こんなことできるの?! お母さんできないよ、どうやったの?」という驚きや賞賛が自然と加わります。子どもにとって保護者のその反応はすごくうれしいはずです。
森さん:確かにそうですね。保護者だけではなく、大人全般に言えることかもしれません。僕は普段、個別支援級や保健室登校の子どもたちにも動画制作のワークショップをしていますが、子どもたちのつくった動画を見た学校の先生方も、「こんなことができるんだ!」と驚かれます。また以前、ワークショップでお手玉の動画をワンシーン・ワンカットで自分撮りで制作した女の子がいたのですが、本当に素晴らしくて、たくさん褒めたことがあります。彼女は今でも「あの動画、良かったんだよね」と、学校に行くたびに声を掛けてくれる。それくらい、褒められたことがうれしかったということなんでしょうね。
今後の展望を聞かせてください。
より多くの子どもたちに「できた!」と感じられる経験の場を。映画制作への挑戦も
竹本さん:「子ども商店会」というプログラム自体は、毎回違う子どもたちが参加していくことになるので、根底の部分は変えずに続けていくかもしれません。ただ今回の経験を踏まえて、次回はもっと動画のスキルをうまく入れ込んでいくことができたら、最後の発表のときに、また違うものができそうだなとわくわくする期待もあります。
団体では毎年さまざまな新しいコンテンツを考えながら活動していますので、今のコンテンツをバージョンアップしながら、さらに多くの子どもたちに提供していけたらいいですね。
一貫して大切にしているのは、子どもたちが“わくわく”すること。段ボールでまちをつくって宿泊するという防災キャンプでは、食事はお湯を沸かしてつくる非常食、夜は寝袋を持参しても段ボールベッドやアルミシートを使って寝てもいいという、全部が新鮮で面白い体験でした。子どもたちは、普段の暮らしからは想像できなかった不便さを楽しんでいましたが、そうやって体験したことは、テキストで学ぶよりはるかに子どもたちの中に残りますし、生きていくための力になるはずです。体験を通してわくわくしながら、大切なことを学んでもらいたい。生きる力をいっぱい持ってほしい。そんな思いを変わらず持ちながら、これからも続けていきたいですね。
森さん:かつて動画制作といえば、ビデオカメラで撮影したものをパソコンに移して、高度なソフトを使って編集していましたが、今はiPadと無料のアプリを使えば、簡単に動画を作成できる時代になりました。僕はそういったデジタルツールを活用して楽しく映像をつくることを、子どもたちに伝えたいと思っています。特に、日常の生活に難しさを抱えている個別支援級や保健室登校の子どもたちに、表現したり、想像したりすることの楽しさを伝えてあげたい。学校や学級同士の情報共有がスムーズになれば、より多くの子どもたちに伝えやすくなると思うので、情報共有のためのコンテンツづくりやサイトづくりにも挑戦していきたいですね。
そして、映画! もう十数年前になりますが、商店街で子どもたちと映画をつくったことがあります。3~5分程度のものですが、商店街の人たちにも出ていただいて、それもとても面白かった。そんなことも、またできたら良いですね。
竹本さん:短い映画、いいですね。「子ども商店会」の活動の主眼は、子どもたちが“働くこと”を通して、あるいはお店の人へのインタビューを通して、自分のキャリアを考えるということに置いていますが、もう一つ、まちづくりを考える際に商店会側からも、「子どもに目を向ける」機会をつくりたかったというのもあります。地域の商店会と子どもとのつながり、あるいは家庭とのつながりが生まれて、それが「商業」や「まちづくり」にもつながったらいいなという思いもあります。
子どもたちが働く体験を受け入れて協力してくださったお店や商店会のPR動画を子どもたちがつくり、小学生がつくったという話題性を持たせた中でPRに使っていただくとか、そんな流れができると、ただ協力をお願いするだけではなくて、商店会の方にとってもwin-winになるような形ができていくかもしれませんね。
森さん:お声掛けいただければ、またいつでもお手伝いしますよ。
NPO法人 あおば学校支援ネットワーク 理事長竹本 靖代(たけもと・やすよ)さん
専門学校や塾で講師をしながら、多様な青少年と関わる。子育て中にPTA会長を長年続けつつ活動範囲を広げ、2005年に「あおば学校支援ネットワーク」を発足。当初より代表として、法人化後は理事長として、活動に携わる。子どもたちがわくわく熱中できる体験から学びを得るプロジェクトを次々に起こし、参加は高倍率の抽選になることも多い。活動のポイントは、真面目なことをいかに面白くできるか。体験活動から生み出したメソッドによる講演や研修など、人材育成を図る活動も行っている。
NPO法人 ちいき未来 理事森 康祐(もり・こうすけ)さん
湘南市民テレビ局を経て、2005年度より青少年や市民向けの映像ワークショップを開催し、延べ約7,000名以上に指導を行う傍ら、映像祭の運営などにも携わる。また藤沢市、日本ソフトテニス連盟、J:COMなどの映像制作や映画制作にも参加。2018年、「ちいき未来」での活動を開始し、表現することの楽しさを子どもたちに伝えたいと、2021年からは横浜市内の小学校や大学などにも出向き、映像授業を行っている。