2022.10.26
リーダーインタビュー Vol.8
ワーカーズ・コレクティブ子育て応援チームすこっぷ北後 真智子さん
こぼれる砂をすくうスコップのように、必要な人たちに届く支援を。
親子に寄り添う“家庭訪問型”の子育て支援「ホームスタート」
乳幼児を抱えた育児期には、ちょっとした息抜きや気分転換ができる時間を持つことさえ簡単にはいかないもの。「ワーカーズ・コレクティブ子育て応援チームすこっぷ」では、育児の不安や悩みに加え、日々の生活の中でストレスを抱えてしまいがちな親御さんに寄り添う活動を続けています。2022年度東急子ども応援プログラムの助成を受けて、さらなる拡大を目指す「ホームスタート(※1)」事業をはじめ、さまざまな取り組みに懸ける思いを代表の北後真智子さんに伺いました。
※1:ホームスタートとは…未就学児がいる家庭に、研修を受けた地域の子育て経験者が訪問し、話をしたり(傾聴)、一緒に家事・育児や外出(協働)をしたりする「家庭訪問型」子育て支援ボランティアのこと。1973年にイギリスで始まり、その活動は世界に広がっている。
はじめに「ワーカーズ・コレクティブ子育て応援チームすこっぷ」について教えてください。
子育てを孤立させない。地域の親として、子育て期の親子をバックアップ
「すこっぷ」は、もともと世田谷区経堂にある生活クラブ生協の「子育て広場ぶらんこ」(現在は世田谷区おでかけひろば)の運営団体として2009年に設立しました。子育て支援の場がまだまだ少なかった頃で、当初は利用者さんも、サポートする側として携わる人も会費を支払う会員制の子育て広場でした。その後、社会的な子育て支援の輪が広がり、ぶらんこの活動が世田谷区の事業として成長。そのタイミングでひと区切りをつけ、2018年からはすこっぷ独自で子育て支援活動を開始しました。
マンションの1室からスタートし、今の場所に移転したのが2020年。現在は「親子サロン」「地域の子育て支援」「保育」、そして拡大を目指している「ホームスタート」の4つの事業を柱に、子育ての悩みについておしゃべりする「おしゃべりワークセッション」や、発達障がいのあるお子さんを育てる親御さん向けの「ペアレントメンターと話そう!」など、地域の親子が楽しく過ごせる子育て支援の場と機会を提供しています。
北後さんはどのような経緯で、すこっぷに関わることになったのですか?
赤ちゃんとお母さんを支援したい。40年前の悲しい出来事が強い原動力に
直接的には、ぶらんこの立ち上げの際にお声掛けを頂いたことがきっかけです。それまで月に1回、自宅で子育てサロンを開いていたので、その経験を生かせるのでは、と思われたのでしょうね。すこっぷの初代代表となる岡田さんをはじめ、同じような経緯で集まった設立メンバーたちともその時に出会いました。
私が自宅でサロンを開いたのは2004年ですが、子育て支援をライフワークにしたいという思いは、もっとずっと前から持っていたんです。もう40年近く前になりますが、産後うつになってしまったお母さんと生後4カ月の赤ちゃんが共に亡くなるという出来事が、とても身近なところで起こりました。本当に悲しくて、悲しくて。こんな悲しいことは二度と起こらないようにしなくてはいけない、お母さんと赤ちゃんを一人でも多く支援したいと、その時強く思ったのです。その気持ちは今も変わりません。「もっとこうすれば良かった」「今ならこんなことができるのに」といった思いはずっと消えませんし、そのことを考えながら活動を続けてきました。
40年前の出来事はとても悲しい経験ですが、それは私の原動力でもあります。とはいえ、私の思いだけで、活動ができているわけではありません。私たち団体は、“子育ては地域で”という同じ志を持った仲間が集まって出資・運営・労働などの協同事業を行うワーカーズ・コレクティブというスタイルを取っていますが、それぞれ得意分野があって、みんなで活動を引っ張っている、という意識があります。仲間がいるからこそ、私のライフワークも実現できている。本当にありがたいな、と思っています。
子育て中の家庭にはどのような支援が求められていると感じていますか。
子どものことだけじゃない、さまざまな思いにまずは寄り添うことが大切
ぶらんこの運営に携わっていた頃から感じていたのは、「ここ(子育て広場)に来ることのできない人たちをどうしたら支援できるだろう」ということでした。産後うつや、もっと深刻ですぐにでも支援が必要な人たちは、広場に来ることさえできていないはず。その方々に支援を届けるための方法を思案していたタイミングで出会ったのが「ホームスタート」という取り組みでした。
すこっぷのホームスタート事業では、コーディネート役のオーガナイザーが利用者さんの希望を聞き、マッチングした「ホームビジター(※2)」と呼ばれるボランティアスタッフが週1回2時間程度、4回訪問をして子育てに寄り添い、親が心の安定や自信を取り戻して地域へと踏み出していくきっかけづくりをサポートしています。
子育て中の親御さんの中には、「子どもの発達に悩んでいて、広場に行くとどうしても周りの子どもと比較してしまうから行きたくない」「小さな子どもが複数いるので出掛けること自体が大変で行けない」という方もいます。また、「とにかく人としゃべりたい」という声もよく聞きます。子育てのこと以外にも、夫婦仲のことやお金のこと、家庭環境についてなど……。さまざまな思いを抱えながら日々を過ごす中で、もやもやを感じることがあるけれど、それを話す相手がいない。そういった気持ちに寄り添って話を聞くだけでも、利用者さんが明るい表情になってくれることは少なくありません。そんな表情を見ると「ああ、お役に立てて良かった」と思います。なかなか外に出られず悩みながら育児をしている方にこそ、訪問型の支援がとても大切で、届けたいと思っています。
一方で子育て広場に来ることができる方にとっても、ホームスタートのような個別支援は貴重な機会になっていると感じます。「育児中の親同士なので友だちにはなれるものの、どこまで話していいか分からない」とか、「自分ばかりが話すことには遠慮もある」というのが子育て広場。でもホームスタートなら自分の話を聞くために来てくれるので、とても話しやすいという声を聞きます。身内でも友だちでもない適度な距離感が居心地いいのか、実家のお母さんの愚痴やご夫婦間のやり取りなど、リアルな話を聞くことも。すっかり打ち解けてリラックスしている姿が見られるのは、ホームビジター冥利に尽きますね。
どんなにいろいろな支援策を講じても、その支援の手からこぼれてしまう人たちは必ずいます。私たちは砂場のスコップのように、いつも親子の身近でその思いをすくい上げることができる存在でありたい。「すこっぷ」という団体名には、そんな思いを込めています。
※2:ホームビジターになるためには、育児経験があることに加え、ホームスタートの意義や「傾聴」の技術、「協働」についてなどを学ぶ8日間の講習を修了することが必要。
今後の展望を聞かせてください。
まずはホームビジターを増やすこと。その先にある温かい社会の実現を願って
今後は、東急子ども応援プログラムに助成していただく助成金を活用し、ホームスタートの拡大に何よりも大切なホームビジターの養成と増員に力を入れていきたいと思っています。
事業開始当初わずか3人だったホームビジターは、現在16人になりました。養成講座に参加してくださる方は年々少しずつ増え、うれしいことに、今までは利用する側だったけれど自分もホームビジターになりたいと、興味を持ってくださる方も出てくるようになりました。
研修を受けるなど、ある程度のハードルがあるものの、ホームビジターはあくまでボランティア。お金が介在しないので、構えることなく対等な関係で気楽に話を聞いたり、支援ができるのが良いところだと思います。自分が誰かの役に立っていたり、認めてもらえるのって、大人でもうれしいことですよね。お互いに気持ちを豊かにしながら、つながっていけたら、それこそ理想的です。
目指しているのは虐待のない社会。「子育て・介護は社会の仕事」と私たちはよく言います。親が“子どもといることが楽しい”と思えるよう、子育てを、家庭の中だけでなく地域みんなで見守っていきたい。そしてこの活動がいつか、それぞれの思いや個性を尊重し合える温かく思いやりのある地域社会、「助けて」と気軽に言える社会につながっていくことを願っています。
ワーカーズ・コレクティブ子育て応援チームすこっぷ 代表北後 真智子(きたご・まちこ)さん
精神障がい者の地域作業所にスタッフとして勤務した後、世田谷区への転居を機に、2004年から自宅にて子育てサロンを主宰。2009年「子育て応援チームすこっぷ」の立ち上げに参画し、生活クラブ生協による「子育て広場ぶらんこ」の運営に携わる。2020年度より「すこっぷ」の代表を務める傍ら、60歳を超えて保育士の資格を取得。現在、非常勤職員として保育園にも勤務しながら、次の目標に向けて「オープンダイアローグ」という新たな対話の手法を勉強中。