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東急子ども応援プログラム

リーダーインタビュー

2024.06.21

リーダーインタビュー Vol.16

Hope Tree大沢 かおりさん

孤独や後悔を抱えずに、その子らしく生きられるように。
がんで親を亡くした子どもたちを支えるグリーフサポートプログラム

大好きなお父さんやお母さんががんと闘う姿をそばで見守り続けた後、訪れるお別れの時。悲しみ、寂しさ、不安など、小さな胸にたくさんの複雑な思いを抱える子どもたちに寄り添い、サポートを続けるHope Tree(ホープツリー)の活動は、今少しずつ、全国に広がっています。
親ががんであることにとらわれ過ぎることなく、その子らしさを失わずに輝いてほしい―― 。そんな願いを込めて注力している活動や、これからへの思いについて、代表の大沢かおりさんに伺いました。

はじめに「Hope Tree」について教えてください。

パパやママががんに! 子どもたちとがん患者の心に寄り添い、支える

がんになった親を持つ子どもを支えたい、という志を持った仲間と共に2008年に立ち上げたのがHope Treeです。活動は2本柱になっていて、一つは、「CLIMB®プログラム」をはじめとした、親ががんを患っている子どもたちをサポートするさまざまなプログラムの提供です。

「CLIMB®プログラム」では、小学生を対象に1週間に1度、6回のセッションを行います。がんという病気や治療について学び、子どもたちが自身のいろいろな気持ちに気付き、それらをため込まずに表出するにはどうしたらいいか、みんなで工作をしながらお話ししていきます。
他に、親の死が避けられない状態になった時に、病院のスタッフが子どもに対して提供できる「バタフライ・プログラム」や、今回、東急子ども応援プログラムの助成を頂いている、親をがんで亡くした子どもたちを対象にした「グリーフ(※)サポートプログラム」もあります。

※喪失体験による、さまざまな身体的・心理的・社会的な反応のこと(悲嘆)。

もう一つは、これらのサポートを実践できる医療者の育成です。お子さんのいるがん患者さんに、どう対応していくかというノウハウや、支援する力を身に付けた医療者を全国に増やすことで、少しでも多くのがん患者さんとその子どもたちをサポートできる環境をつくりたいと思っています。そのためにウェブサイトや紙媒体での情報発信や啓発活動も行っています。

大沢さんがHope Treeを設立したきっかけは?

がんになった時の不安や、大切な人との突然の別れ。自身の経験が原動力に

「昔から、子どもたちと関わるのが大好きなんです」と大沢さん。ふんわりと優しい物腰で、子どもたちへの思いを語る

医療ソーシャルワーカーとしてたくさんの患者さんと接する中で、がん患者さんやそのご家族ともお話しする機会は多かったのですが、一番大きなきっかけは、私自身ががん患者となり、その治療中に夫を自死によって突然失うという経験をしたことです。

夫の自死は、自分ががんになった時の比ではない衝撃でした。夫の体を発見した瞬間、こんなにもあっけなく、あっち側に行けてしまうんだ、生と死の境目はこんなに薄いんだ、と。
どうして私を置いて行ってしまったんだろう、私は彼を止める存在になれなかったんだ、私のせいだ、と体の半分がもぎ取られ、深い深い底なし沼に落ちていくような感覚でした。

いつも隣にいた一番身近な大好きな人を突然失ってしまった喪失感と、後悔や自責の念。長い時間をかけてその悲しさと共に暮らせるようになったのは、夫を自死で失った人と出会えて、同じような経験をした人でないと言えない愚痴を言い合えたことや、同じような経験をした人の本を読んだこと。食事もろくに食べなくなった私をご飯に連れ出してくれた姉がいたこと。そして、家がシーンとして寂し過ぎるので、自死遺族の掲示板で出会った人が飼って良かったと言っていたフェレットを飼い始めたこと、のおかげかなと思います。

2007年、がん患者としてアメリカのがんセンターへ研修に行く機会があり、そこで出会ったのが、カウンセラーとして親ががんになった子ども向けに「CLIMB®プログラム」を実践していたマーサ・アッシェンブレナーでした。私は帰国子女で英語ができたので、彼女と直接話をし、何よりもそのお人柄や、実践力にとても感銘を受けました。

大切な家族との別れは大人でも辛いのに、ましてや子どもたちはどんな思いをしているのだろう。どんなサポートを必要としているのだろう。知りたいことをたくさん教えてもらいました。子どもたちは医療者にとって見えない存在で、当時日本では支援の対象ですらありませんでした。
私はたまたま日本語も英語も理解することができ、大切な人を失う辛さも経験していたので、これはぜひ日本に持ち帰らなければと強く決心しました。

翌年、スタッフを務めていたがんの患者会主催でマーサを日本に呼んで講演会を開いたところ、たくさんの医療者が参加し、その場に集った同じ志を持つ人たちでできることを始めよう! と2008年にHope Treeを立ち上げました。

親ががんになってしまった子どもたちには、どのようなサポートが必要なのでしょうか。

その別れを“突然死”にしないように。お別れの準備は、子どもがこれからを生きるために大切な時間

親ががんで治療をしていたり、亡くなると、子どもはいろいろな気持ちを抱えます。心配したり、不安だったり、寂しかったり、悲しかったり、怒りだったり。でも、同じような経験をしている友だちは周りにいないし、同情されたくないとか、周りの子たちと違うと思われたくなくて、学校では話せないし話したくない。テレビで誰かががんで死んだなんて聞くと怖くなるけれど、親にも聞きづらい。そして自分の気持ちや疑問を誰にも言えなくなったり、そんな感情を持つのはいけないことなのではないかとさえ考えてしまいます。

どんな思いもその子自身の素直な気持ちであって、間違いではありません。「CLIMB®プログラム」では、どんな気持ちになってもいいこと、自分の気持ちを抑え込まずに、安全に表出する方法を、楽しみながら身に付けていきます。何より、プログラムに参加した子どもたちは皆同じような体験をしているので、学校の友だちには言えない思いも話せる場所になっていると感じます。

中にはがんのことを子どもに伝えないご家庭もあります。まだ小さいから、不安にさせたくない、悲しませたくないなど、子どものためを思ってのことが多いかと思いますが、その親御さんなりのペースで、いつか教えてもらえると、子どもも安心できるようになると思います。
ただ、死が避けられない状況になった時は、事前に子どもに伝えてあげてほしいです。なぜなら、もうすぐ亡くなることを知らされずに亡くなるとそれは子どもにとって、突然死と同じになってしまうから。さらに年が上のきょうだいは教えてもらっていたのに、自分だけ本当のことを知らされなかったことが分かると、家族の中でのけ者にされたような悲しさ、怒り、も感じてしまいます。

もっと優しい言葉を掛けてあげれば良かったとか、あの時あんな風に怒らなきゃ良かったとか。事前に教えてもらえ、子どもたちがその事実を受け止め、お別れまでの準備をする時間は、きっとこれから生きていく上での支えにもなるはずなので、とても大切だと思います。

「CLIMB®プログラム」に参加してお別れの準備をしながら時間を過ごせた子どもたちは、親が亡くなった後、気持ちを率直に表現できることが多い印象です。グリーフキャンプでは、亡くなった大切な人の思い出はずっとその子と一緒にあるんだよというのを感じ取れるように、一緒にやって楽しかったことを語り合ったり、工作をしたりしますが、亡くなった親への手紙も、集中して書いている姿が印象に残っています。

今後の展望を聞かせてください。

もっともっと支援の輪を広げたい。思春期の子どもたちを対象にしたプログラムも準備中

これまでは、「CLIMB®プログラム」に参加したことのある子どもたちを対象にしたグリーフサポートプログラムとして、キャンプを開催してきました。いろいろな人のサポートを受けながらどうにか暮らしてはいても、時には同じような立場の仲間に会えるのはやはり力や癒しになると思うので、今後は、「CLIMB®プログラム」に参加したことのない一般の方でも参加できるような、デイプログラムを開発したいと思っています。

また、思春期の子どもに向けたプログラムの開発も進めています。思春期って、発達段階でそれでなくても葛藤が多い時期。素直ではないし、虚勢を張っていたり、ひねくれたりもするけれど、だからこそ、仲間がいるということが本当に大事だと思うのです。小さな頃に「CLIMB®プログラム」に参加した、今、思春期の子たちにも協力してもらいながら、少しずつ形になってきました。

親ががんであっても、子どもらしく、その子らしい人生を生きていってほしいなと。親ががんだったり、がんで亡くなってしまったことは、人生の中の一つの大きな経験です。その経験から身に付いた思いやりや柔軟性は、今後の人生できっと役に立つと思います。自分には力があるんだ、大切にされ、愛されているんだ、と自信を持って、好きなことややりたいことをしながら、自由に楽しく生きていってくれたらなと思います。

少しずつ、プログラムを実践できる医療者を育てて、輪が広がってきてはいますが、まだまだ十分ではありません。子どもたちのためにも、この活動をもっともっと全国に広げていきたいですね。

NPO法人 Hope Tree 代表理事大沢 かおり(おおさわ・かおり)さん

高校の時に長期入院した経験と、大学在学時より児童福祉に携わった経験から、大学卒業後に医療の現場へ。2007年にアメリカで親ががんの子どもをサポートしている医療者と出会い、日本でもサポートを受けられる子どもが増えるのを願って2008年にHope Treeを設立。東京共済病院 乳がん相談支援センターにて医療ソーシャルワーカーとして勤務する傍ら、NPO法人Hope Tree代表理事として「CLIMB®プログラム」をはじめさまざまなプログラムで親ががんの子ども、そして患者さんと家族をサポートし、支援者の育成や啓発活動にも携わっている。

Hope Tree

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