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東急子ども応援プログラム

リーダーインタビュー

2024.04.17

リーダーインタビュー Vol.15

Sharing Caring Culture三坂 慶子さん

言葉と文化の壁を乗り越えた、思いやりのある社会に。
多文化交流を通して子どもたちの国際性と人権感覚を育む

横浜港の開港以来、多くの外国人を迎え入れてきた横浜市。今も多くの外国人が暮らし、コミュニティーが形成されている地域がある一方、ニュータウンと呼ばれる港北区や都筑区などの地域は外国人や日本人の転出入が多く、コミュニティーが醸成されにくいという課題を抱えています。そんな都筑区を拠点に、外国人の親子の居場所づくりを進めるSharing Caring Cultureでは、さまざまな国の文化を体験できる多文化交流を通して、日本人の子どもたちに多様性の素晴らしさを伝えています。東急子ども応援プログラムの助成を受けている活動の内容や、取り組みに懸ける思いについて、代表の三坂慶子さんにお話を伺いました。

はじめに「Sharing Caring Culture」について教えてください。

外国籍の親子の居場所づくりを通して、日本の子どもたちが多文化を知る機会を創出

Sharing Caring Cultureでは、都筑区を中心に青葉区・港北区・緑区の横浜市北部4区に住んでいる外国出身の親子の中でも特に在日歴が浅く、日本語が苦手で言葉や文化の壁を感じている親子を対象に文化的な活動を通して、地域の人や情報とつながるコミュニティー支援を行っています。

取り組みは主に二つあります。一つは外国人の子育て支援事業です。0~6歳の未就学児のいる親子を対象に、英語と「やさしい日本語」を使った多文化親子交流会を開き、日本の季節の行事紹介などを行っています。また、ランチ交流の際に、地域で英語を話せるお医者さんがどこにいるかや保育園の入園の仕方などが話題になったことから、子育て情報冊子『OYACO(おやこ)』を発行しました。
来日前に自国でジャーナリストをしていたインドネシア出身のメンバーに編集長を任せ、情報の受け手としてだけではなく、外国出身者を編集メンバーに加え、外国人自らが欲しい情報を発信する冊子として、英語版と「やさしい日本語」版を発行しています。

もう一つは、外国出身者が講師を務める多文化交流事業です。日本語は苦手でも、料理や読み聞かせといった子ども向けの文化的な活動を通して、外国出身のお母さんたちが社会参加でき、地域の中で子どもたちが多様な価値観に触れ、認め合う場を目指しています。最近は、東急子ども応援プログラムの助成のおかげもあり、イベントの回数を増やすこともできています。
団体の会員は現在60人で、その約3分の1の20人が外国人のメンバーです。共に運営をしながら外国出身の方が地域に根付き、個性を発揮しながらウェルビーイングな社会をつくっていくことを目標に活動しています。

どのようなきっかけで、多文化交流を始められたのでしょうか。

アメリカでの経験と教員時代に気付かされた、外国人親子が感じている疎外感

「人と違ってもいいんだよ」ということを子どもたちに伝えたいと語る三坂さん

私は父の仕事の転勤で、小学校の3年間をアメリカで過ごしたのですが、日本人学校が近くになかったので現地校に通っていました。言葉も分からない中、日本人が珍しがられたことをとても苦痛に感じた時期があって。そんな時、日系の先生に「違っていいんだよ」と言っていただいてとても救われたんですね。でも帰国して公立の小学校に編入すると、今度は逆に違いが目立つといいことがなくて、みんなと同じでいる方が平和だったのです。

社会人となり、小学校の教員になると、外国籍の子どもたちが同じような思いをしていることに気が付き、やはり子どもたちにとって多文化理解の経験が必要だと感じました。また子どもたちだけでなく、外国出身のお母さんたちが社会との接点を持てずに孤立している様子も目の当たりにしたのです。
とはいえ学校の中でできることは限られているので、地域の中で日常的に多様な人たちに出会える場をつくりたいと思い、出産を機に退職し、その後知り合ったフィリピンと韓国出身のお母さん2人と一緒に任意団体を立ち上げました。

外国人主婦を講師にした多文化カルチャー講座の他に、小さな子どもも一緒に参加できる場をと、「Arts and Crafts Playgroup(アーツアンドクラフトプレイグループ)」という工作を一緒にする親子プレイグループを始めたのですが、最初はなかなか人が集まらなくて。でも幸い今でもコアメンバーとして活動するタイ出身のお母さんが一番最初に参加し、外国出身のママ友に声を掛けてくれたことから、輪が広がっていきました。人が集まるようになると、今度は参加してくれた人たちから「私もこんなことができます」とか、「お料理がしたい」とかいろいろな声も集まり、共感して新しく運営メンバーになってくれる人たちも増えていきました。

今は、プロジェクトの企画は外国籍のメンバーが、会場予約などの事務的なことは日本人メンバーがと、それぞれの得意な部分を無理なく分担しながら楽しくやっているので、活動がどんどん活発になってきているように感じています。3~5年で帰国するメンバーもいますが、それぞれの国でもこういう活動をしたいと言ってくれる人も多いです。
以前、ドイツ人のメンバーから「ボランティア証明書を出してほしい」と言われたことがありました。それを持って、帰国後は障がい児の学校でサポーターをしているそうです。私たちは小さな団体ですが、ここで体験したことを帰国後にも生かしてくれていると聞くと、誰かの人生に意義を与えられたと感じられて、うれしいですね。

外国人の親子を取り巻く環境は、今、どのような状況でしょうか。

日本人にとっては“当たり前”のことこそ、きちんと伝えることが必要

スマートフォンの普及もあって、情報収集のハードルはずいぶんと下がりました。しかし、制度的なことや仕組みは、まだまだ分かりにくいことが多いのが現実です。例えば日本の幼稚園は、入園の前年秋に募集があり、願書を出して4月から入園しますが、外国では必ずしもそうではありません。自国ではいつでも適宜入園できるのでそのつもりで4月に来日したところ、どこも空きがないと言われて、結局次の年まで1年間、入園を待たなければいけなかったというケースもありました。私たちにとっては当たり前のことが、外国の方には理解しにくいところがあります。

また、私はいろいろなところで講演をさせていただく機会があるのですが、なぜ外国人を支援しなければいけないのですか、困っている日本人もたくさんいるのに外国人を特別扱いするのはおかしい、などのご意見を大人の方から頂くことがあります。こういった、外国人を受け入れることに対する壁や風当たりを感じる時もあり、まだ柔軟に偏りなく考えられる余裕のある子どものうちから人権教育を行う必要性を感じます。「違う」ことが恐れになると排除につながりかねませんが、子どもの頃から違いを受け止められる感性を持つことで、多様な人たちを包摂する社会をつくっていくことができるのではないかと考えています。

海外では、多様な民族で構成される家族が多く、ミックスルーツの子どもたちが多いです。フランス人とギリシャ人とのカップルなら、家族全員で話すときは英語、子どもがパパと話すときはフランス語、ママとはギリシャ語で、というのも当たり前。家庭環境でも多言語です。家族全員が一つの言語だけで会話できる状況の方がむしろレアなので、日本が普通じゃない、海外に出れば同じ民族同士で家族が成り立っているのは少なくて、混血というのが普通なんだよ、と子どもたちには伝えています。そういう視点って、外に出ないと分からない。だからできるだけ日本にいると気付きにくい視点を共有するようにしています。

多様性、ダイバーシティーの良さは、いろいろな視点で物事を見ることで、より良いものが生まれること。例えば情報冊子の『OYACO』を作る時にも、外国人当事者の話を入れたいというのは、外国人メンバーの発想でした。スケジュールもギリギリで、日本人メンバーだけなら思い付かなかったことでしたが、結果、これがいいと共感してくれる方がとても多かったのです。多様な文化的な背景を持った人たちと活動をしていると大変なことももちろんありますが、その分、素晴らしいものが生み出されるように感じています。

団体名には、そんな思いを込めました。英語には、「Sharing is caring(分かち合うことは思いやること)」という言い回しがあり、子どもが遊んでいるときの声掛けにも「相手と一緒に仲良く使いましょうね」という調子で使います。たくさんの文化を分かち合い、お互いに思い合える社会になるといいなと思っています。

今後の展望を聞かせてください。

国籍にかかわらず、全ての人が活躍できる地域づくりを目指して

これまでは未就学児の子どもとその保護者を対象にしていたのですが、今後、小学校3年~6年生くらいの子どもを対象にした多文化理解の教育プログラムも検討しています。具体的な内容はこれからですが、外国出身者と参加する子どもたちが双方向にコミュニケーションをしながら、なぜ違いを受容する必要があるのかを考える場をつくっていきたいと思っています。

また図書館での読み聞かせ事業など、外国出身者がどんどん地域の中で活躍する場もつくっていきたいですし、外国出身者と接点を持ちにくい児童養護施設の子どもたちに私たちの子ども多文化交流プログラムを出前型で届けることができないかと検討しています。

私たちは日本語が苦手な外国籍親子をターゲットにして活動しているので、日本語よりも英語での発信が多いですし、日本語も「やさしい日本語」での発信をするので、よく日本人の方に、日本人でも参加していいんですかと聞かれます。
外国人向けのイベントだろうとか、英語を話せないと参加できないのではと思われがちなのですが、むしろ私は日本人の方に参加してもらいたいと思っています。というのも、マジョリティーであるホスト社会側の私たちの方が、多様な視点を持たないと、外国ルーツの子どもたちにとっては生きにくい社会になってしまいます。多様な文化や視点に触れることは、日本人にとっても良いことなので、どんどん日本人の方に参加していただきたいですね。

Sharing Caring Culture 代表理事三坂 慶子(みさか・けいこ)さん

幼少期をアメリカ・カリフォルニア州の多文化環境で過ごす。大学院卒業後、英会話スクールでの児童英語講師や川崎市立小学校の教諭を経て、2014年に外国人在住者と共に地域づくりを進めることを目的とした任意団体Sharing Caring Cultureを設立。2019年にはNPO法人化し、代表を務める。現在は外国人在住者と地域をつなぐ多文化コーディネーターとして活動する傍ら、関内イノベーションイニシアティブ株式会社の事業開発リサーチャーとして、まちづくりのプロジェクトや調査に携わっている。

Sharing Caring Culture

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