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- 木下 勇
- 大妻女子大学 教授/千葉大学 名誉教授・グランドフェロー
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- 岩田 美香
- 法政大学 現代福祉学部 教授
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- 桑子 敏雄
- 一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ 代表理事/東京工業大学 名誉教授
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- 原 美紀
- 認定特定非営利活動法人 びーのびーの 副理事長・事務局長
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- 中村 恒次
- 東急株式会社 社長室ESG推進グループ 統括部長
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- 木下 勇
大妻女子大学 教授 /千葉大学 名誉教授・グランドフェロー
大学で建築を学び、スイス連邦工科大学に留学。遊び場をテーマに工学博士を取得。「子どもの遊びと街研究会」主宰、農村生活総合研修センター研究員を経て千葉大学園芸学部教授、2020年4月より現職。日本ユニセフ協会「子どもにやさしいまちづくり事業」委員会委員長。専門は、住民参画のまちづくり、都市計画、農村計画等。
東急子ども応援プログラムの選後総評
第4回目の2024年度東急子ども応援プログラムに多くの応募を頂き、感謝申し上げます。選考過程および全体の総評を以下のように記します。
2023年7月より公募告知を開始、同年9月1日から2週間応募の受付を行い、その結果、64件の応募が寄せられた。まず、第一次の審査で募集要項にのっとった申請かどうか、書類の不備がないかなどをチェックした。その結果、対象案件が50件に絞られた。その後、2023年12月15日に、東急株式会社・本社会議室にて選考委員3名が対面で集まり、選考委員会を開催した。選考委員2名は急用と体調不良のため欠席であったが、事前審査評を提出していただいたので、それをもとに慎重に意見を交わして助成候補を絞り込んだ。
事前審査評は募集要項記載の選考基準をもとに、新規案件には①趣旨への適合性、②子どもの視点、③実現可能性、④地域性、⑤継続性、継続案件には⑥発展性を加えて、これらの選考基準ごとに3段階の評価をして、総合評価のコメントもつけて事前に提出していたものである。その各選考委員の評価をまとめた一覧を参考に議論を重ね、評価の高い上位の順から全体の総額1,500万円の枠内に収まる案件を選出した。なお、助成額が昨年の1,250万円から1,500万円に増額されたのは、この東急子ども応援プログラムが評価を得ていることの証でもあり、東急株式会社のこのような対応に選考委員長として深く感謝申し上げたい。
選考委員会の討議の結果、新規案件12件、継続案件4件が選出された。
今年度は昨年度よりも応募が急に増えた。またどれも、申請書がしっかりと書いてあり、選考で絞り込むのは大変苦労をした。しかしながら、全体のパイは決まっているので、全てに分けられない。僅差で採用にかなわなかった申請なども、有意義なものが多く、その採否は相対的な評価による線引きの結果で、申請団体の活動や申請内容を否定するものではないことを強く伝えておきたい。とりわけ、今年度の申請には困難な状況に置かれた子どもたちの支援を行う活動が例年より多いように見受けられた。
こども基本法が成立し、こども家庭庁が発足したことで、国を挙げて子どもに光を当てた政策が打ち出されるかと期待したが、どうもはっきりしない。もとより、子どもの生活圏を考えれば、地域単位で子どもに目を注ぐ活動が求められる。とても行政だけでできるものではないので、NPOをはじめ民間団体の役割が期待される。子どもの成長に地域コミュニティーが果たしていた役割が人間関係の希薄化とともに薄れてきた中で、そのような専門組織と行政、そして企業の連携をどう築くかが課題である。本プログラムもその一助として発展していくことが期待される。
- 木下 勇
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- 岩田 美香
法政大学 現代福祉学部 教授
教育学博士。スクールソーシャルワーカースーパーバイザー。児童養護施設スーパーバイザー。北海道医療大学看護福祉学部専任講師、北海道大学大学院教育学研究院准教授を経て、現職。主宰するゼミの研究テーマは、社会経済的困難を持つ子ども・家族への援助。
本プログラムの初回から連続して選考を担当していますが、毎回、応募書類を通して私が多くの学びを頂いています。それは、企画の目的においても活動内容においても、支援を必要としている子どもとその環境を中心にしながら、さまざまな工夫が考えられており、応募者の皆さまの柔軟な発想に驚かされるからです。
プログラムの中には、今まで光が当てられることが少なく、支援も行き届いてない子どもたちに注目して、活動展開を企画しているものもありました。一方、既に一定の支援は展開されている課題に対して、その対象を広げる、あるいは支援のさらなる質を向上させるための企画もありました。いずれもが本助成テーマの「子どもたちの幸せを支える地域の活動の応援」において大切な活動であり、選考の難しさを覚えました。
応募の量・質共に高くなっている現状において、今後は応募や選考における工夫も必要になるのではないかと感じました。プログラムの発展を期待しています。
- 岩田 美香
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- 桑子 敏雄
一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ 代表理事/東京工業大学 名誉教授
専門は哲学、倫理学、合意形成学、プロジェクトマネジメント論。東京工業大学大学院社会理工学研究科教授を経て現職。社会基盤整備に際し、異なった意見や対立している意見がある場合に、行政や市民と共に話し合いを通して創造的な解決へ導く「社会的合意形成」のプロジェクトマネジメントの実践的研究と実際のコーディネートを行っている。元東京工業大学リベラルアーツセンター長。
今年度もたくさんの応募を頂きました。皆さまの活動に敬意を表したいと思います。
さて、東急子ども応援プログラムは、皆さんからご提案いただいているたくさんの具体的なプロジェクトで構成されています。私自身は、大学での研究プロジェクトや法人の公共事業に関わるプロジェクトで、プロジェクトマネジメントについての研究も行ってきた経験がありますので、以下の提案をしたいと思います。
プロジェクトは、目標(ゴール)が明確で、そのゴールはどのような要素からなると考えられているのか、ゴールに至るまでの作業(タスク)にはどのようなものがあり、それを具体的にどう実行しようとするのか、またその作業(タスク)の範囲(スコープ)はどのようなものであるのか、タスクは時間軸に沿ってどのようなプロセスで実行していくのか、などが明確でなければなりません。しかし、計画書の中には、組織の全体の活動と本プログラムの助成活動との仕分けが明確に読み取れないものもあります。
また、プロジェクトの推進主体となっている団体・組織の概要について、組織の活動資金の獲得と本プログラムの資金の区分が明確でないもの、活動者の紹介(専任者なのか、ボランティアかどうかも含めて)が不十分な例もあります。さらに、助成の使途が人件費だけの場合にはその理由が分からないものもあります。要するに、組織の事業全体の中での本プログラムの助成活動の位置付け(特に目的、資金の使途)を明確にしていただきたいということです。
もう一つ、報告書と継続の場合の計画書に必要なこととして、当該年度の実績・活動報告を具体的に記載することも重要です。これはプロジェクトマネジメントでいうと、タスクをどう実行したかを記録することです。そのためには、いわゆる実行可能なタスクまで具体化すること(WBSといいます)が大切です。抽象的に「ミーティングを実施した」ということではなく、「いつどのように、どのような内容で、また、どのような参加者が参加し、どのような感想を持ったか」を詳細に記録し、報告することで、その活動が評価されるということです。
ぜひプロジェクトを推進する皆さんがプロジェクトマネジメントの手法を学んでいただくことをアドバイスいたします。
- 桑子 敏雄
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- 原 美紀
認定特定非営利活動法人 びーのびーの 副理事長・事務局長
社会福祉士。子育ての当事者として必要性を感じ、2000年にNPO法人びーのびーのを設立。「地域で共に育ち合う子育て環境づくり」を目指し、親への子育て支援をする場の創出を目的に、育児支援施設「おやこの広場びーのびーの」、港北区地域子育て支援拠点「どろっぷ」「どろっぷサテライト」他、預かり保育や小規模多機能保育事業などを運営している。地域の子育て支援拠点が全国に展開されるモデルとなっている。
コロナ禍でスタートした本助成プログラムですが、経年の中で周知が進み、多様な団体から多数のご応募を頂き、心からの感謝と共に、熱意のある企画発信に敬意を表したいと思います。
新しくても根源的なものを追求している団体、根源的な要素を持ちつつ新しいことにアップデートしていこうとする取り組み、本助成でさらなる連携やネットワークを広げ、種を飛ばそうとする内容など、企画提案はさまざまでした。
先駆的に課題解決型で動かれていた団体だからこそ、さらに見えてきた課題や、支援と支援のはざまを埋めることや、活動を持続可能にするための手だてなど、日々四方尽くされている様子が伝わります。
辰年は干支の中で唯一実在しない生き物でもあることから、今年は特に目に見えないものを大事にしていくことが必要だそうです。助成テーマである「子どもたちの幸せを支える地域の活動の応援」のもと、各団体の実践にこそある「体感」と「未来を予測する視点」、見えないけれど「きっとこれが必要! こうなったらいいな!」の願いに強く共感できることを選考上での視点にしてみました。
災害や天災が頻発する時代の中で、次世代を担う子どもたちへのコミュニティー形成に期待と夢を託せる本選考委員会に臨ませていただいたことにも深謝します。
- 原 美紀
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- 中村 恒次
東急株式会社 社長室ESG推進グループ 統括部長
子どもの未来を応援する活動に取り組む団体の皆さまから、昨年を上回るご応募を頂き心より感謝申し上げるとともに、今年も責任の大きさを感じながらの選考となりました。新型コロナウイルス感染症が5類感染症になったことに伴う子どもを取り巻く環境の変化を踏まえ、活動内容を模索する様子が応募書類から伝わり、さまざまな工夫を凝らして子どもたちの心身の成長と自立を支援するための取り組みを展開されていることに敬服するばかりです。
選考においては、各委員の多様な経験を踏まえた視点、および事務局からの報告によって、応募書類に表し切れない関連情報も勘案する議論がされました。個人的にはデジタル活用によるバリアフリー貢献など、新たな取り組みへの期待も膨らみました。
このプログラムが、子どもたち一人ひとりが望む「幸せ」につながり、安全・安心で心豊かに暮らせる社会になっていくことのお役に立てたらと願っております。
- 中村 恒次