- 木下 勇
- 大妻女子大学 教授/千葉大学 名誉教授・グランドフェロー
- 岩田 美香
- 法政大学 現代福祉学部 教授
- 桑子 敏雄
- 一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ 代表理事/東京工業大学 名誉教授
- 原 美紀
- 認定特定非営利活動法人 びーのびーの 副理事長・事務局長
- 中村 恒次
- 東急株式会社 社長室ESG推進グループ 統括部長
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- 木下 勇
大妻女子大学 教授 /千葉大学 名誉教授・グランドフェロー
大学で建築を学び、スイス連邦工科大学に留学。遊び場をテーマに工学博士を取得。「子どもの遊びと街研究会」主宰、農村生活総合研修センター研究員を経て千葉大学園芸学部教授、2020年4月より現職。日本ユニセフ協会「子どもにやさしいまちづくり事業」委員会委員長。専門は、住民参画のまちづくり、都市計画、農村計画等。
東急子ども応援プログラムの選後総評
第3回目となる2023年度の東急子ども応援プログラムに、たくさんの応募を感謝申し上げます。選考過程および全体の総評を以下のように記します。
2022年7月より公募告知を開始、同年9月1日から15日の間に応募の受付を行い、その結果、54件の応募が寄せられた。まず、事務局が募集要項にのっとった申請かどうか、書類の不備がないかなどチェックした後、2022年12月22日に、東急株式会社本社会議室にて選考委員5名が対面で集まり、選考委員会を開催した。
選考委員は募集要項記載の選考基準をもとに、新規案件には①趣旨との適合性、②子どもの視点、③実現可能性、④地域性、⑤継続性、継続案件には⑥発展性を加えて、これらの選考基準ごとに3段階の評価をして、総合評価のコメントもつけて事前に提出していた。その各選考委員の評価をまとめた一覧を参考に評価の高い順から議論を重ね、全員が納得した上で全体の総額1,250万円の枠内に収まるよう案件を選出した。なお、助成額が当初予定の1,000万円から1,250万円に増額されたのは継続案件が多かったためと聞く。このような柔軟な対応には選考委員長としても深く感謝申し上げたい。
選考委員会の討議の結果、新規案件8件、継続案件5件が選出された。
選考にあたって、今回議論となったのは、団体の本来行っている活動内容そのままの申請をどう評価するかである。たしかに募集要項にはその点の記載がない。また欧米の国々にみるように「新しい公共」の担い手として経済的にも自立するNPOが少ない事情がある。米国では、経済的雇用に十数%をNPOが占める活力が生まれているのに対して、NPO法が制定されてから四半世紀が経とうとしている中、失われた30年といわれるわが国では、経済のみではなく制度や社会の仕組みもその様を呈している。よって、本助成は継続でも2年という限界があるので、この助成を契機にそれぞれが子どもを支える活動としてさらに飛躍されることが期待され、その期待に応えられるかどうかが判断の分かれ目となる。
もちろん選考基準の趣旨に適合しているか、子どもの視点などで評価した上であるが、それぞれ課題とする事柄も、また背景の分野もアプローチも異なるので、同一基準で判断することがなかなか難しい。3回目ともなると申請書の書き方もレベルがあがり、甲乙つけ難い。それを限られた枠内に選び出すのは選考委員の頭を悩ますところである。推薦が多く一致した場合は良いが、分かれた場合は推薦した委員の意見、推薦しない委員の意見も聞いて、熟議の上、判断に至った。
2023年度はこども基本法が施行され、こども家庭庁の新しい体制で、子ども関連予算増額という。国もようやく子どもに目を向けはじめた。しかし少子化対策が中心で、子どもを当事者として子ども主体の施策がどう展開できるかは未知数である。というのは子どもの生活圏は地域であり、国のスケールとはあまりに離れている。欧米では地域での多様な展開にNPO等の市民団体の活躍がある。真に子どもが幸せになり、未来に希望が持てる社会になるよう、そして将来の社会を引き継ぐ人材が育つためにも、子どもに身近な地域で子ども支援に活躍する市民が増えることが大事であり、この助成がその一助となれば幸いである。
- 木下 勇
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- 岩田 美香
法政大学 現代福祉学部 教授
教育学博士。スクールソーシャルワーカースーパーバイザー。児童養護施設スーパーバイザー。北海道医療大学看護福祉学部専任講師、北海道大学大学院教育学研究院准教授を経て、現職。主宰するゼミの研究テーマは、社会経済的困難を持つ子ども・家族への援助。
初回から数えて3回目の選考をさせていただきました。毎年、応募する団体のレベルが高くなっていき、それぞれが優劣つけ難く、今回も選考に悩みました。応募する団体は、地域のニーズに応じて、あるいは新たなニーズを発掘して、そのニーズに沿った特徴のある活動を提案していました。斬新でハッとする発想の活動や、反対に、一見地味ではあるけれども子どもとその家族にとって大切な活動など、いずれの申請企画書からも学ばせていただきました。
選考委員会においては、各選考委員からの自由で活発な意見交換がなされ、どの申請についてもていねいに吟味して選考が進められました。応募の質があがっていく中で、選考を行っていく私も問われてくるのだと改めて気の引き締まる思いがしました。
選出されたプログラムの展開を期待するとともに、今後も、どのような発想の応募が出てくるのか楽しみに思います。
- 岩田 美香
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- 桑子 敏雄
一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ 代表理事/東京工業大学 名誉教授
専門は哲学、倫理学、合意形成学、プロジェクトマネジメント論。東京工業大学大学院社会理工学研究科教授を経て現職。社会基盤整備に際し、異なった意見や対立している意見がある場合に、行政や市民と共に話し合いを通して創造的な解決へ導く「社会的合意形成」のプロジェクトマネジメントの実践的研究と実際のコーディネートを行っている。元東京工業大学リベラルアーツセンター長。
本プログラム3年目になる選考委員会でとくに印象深かったのは、選考基準の一つである「子どもの視点:子どもの人権と主体性を尊重し、子どもの視点に立った活動か」という点についての熱心な議論が行われたことです。
「子ども応援プログラム」からすれば、当然のことに思えるかもしれませんが、子どもの支援活動に携わる大人たちが厳しい環境に置かれた子どもたちの立場に本当に共感しつつ活動を進めようとしているかどうかという点は、審査の上でも案外難しいのではないかということに選考委員全員が気付いたということがありました。言い換えれば、これは、「子どもたちのために大人は何をしてやれるか」という上から目線になっていないかをつねに問い続ける姿勢を持っているかどうかということでもあります。
選考委員会での議論は、この点についての理解を一歩進めるものになったということをご報告したいと思います。
- 桑子 敏雄
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- 原 美紀
認定特定非営利活動法人 びーのびーの 副理事長・事務局長
社会福祉士。子育ての当事者として必要性を感じ、2000年にNPO法人びーのびーのを設立。「地域で共に育ち合う子育て環境づくり」を目指し、親への子育て支援をする場の創出を目的に、育児支援施設「おやこの広場びーのびーの」、港北区地域子育て支援拠点「どろっぷ」「どろっぷサテライト」他、預かり保育や小規模多機能保育事業などを運営している。地域の子育て支援拠点が全国に展開されるモデルとなっている。
「子ども・子育て支援の充実化」に向けて今春からこども家庭庁が創設され、産前から学童期までの切れ目ない支援が本格的になってきました。今年度の特長には2つの側面があったと感じます。1つは、実績ある活動団体が次なるステージにステップアップしていくための申請が多かったこと、もう1つは居場所づくりから1歩踏み込み、これから確実に増えていくことが予測されるが、まだその受け皿が圧倒的に足らない現状への体制整備に向けた申請が複数見られたことでした。
子育て家庭への直接的な現金給付も有難いことですが、子どもたちを取り巻くさまざまな課題に対処対応できるだけの環境整備は追い付いていないのが実態です。
本助成プログラムの趣旨は「未来を担う子どもたちの幸せで健やかな成長を地域でしっかり支え、その裾野をも支えていく多様な活動を増やしていくこと」です。このことこそが、さらに変革期に入る子育て支援のあり方を環境整備から応援していく一助になることを願い選考させていただきました。
- 原 美紀
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- 中村 恒次
東急株式会社 社長室ESG推進グループ 統括部長
私としては初めて選考に携わらせていただきましたが、本当に多数のご応募をいただき、さまざまな素晴らしい活動が行われていることに感銘を受けるとともに、心強く思いました。コロナ禍により子どもを取り巻く環境も変化し、それを受けた社会的ニーズに対応した工夫を速やかに講じられるなど、応募書類を通じて各団体の皆さまの取り組みへの熱意が伝わり、選考は大変難しいものでした。
選考委員が集まり、多角的に検討を重ねることで、自身の限られた経験に基づいた目線になりがちな私としても、子どもの視点に立つということ、地域に根差した取り組みであること、といった選考基準や、各取り組みの意義について理解が深まりました。
このプログラムを通じて「子どもたちを応援する温かい思いやりの輪」が街に広がり、子どもたち一人ひとりも、活動する大人たちも幸せを実感できる、そんな社会になっていくことのお役に立てたらと願っております。
- 中村 恒次