- 木下 勇
- 大妻女子大学 教授/千葉大学 名誉教授・グランドフェロー
- 岩田 美香
- 法政大学 現代福祉学部 教授
- 桑子 敏雄
- 一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ 代表理事/東京工業大学 名誉教授
- 原 美紀
- 認定特定非営利活動法人 びーのびーの 副理事長・事務局長
- 多田 和之
- 東急株式会社 社長室長
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- 木下 勇
大妻女子大学 教授 /千葉大学 名誉教授・グランドフェロー
大学で建築を学び、スイス連邦工科大学に留学。遊び場をテーマに工学博士を取得。「子どもの遊びと街研究会」主宰、農村生活総合研修センター研究員を経て千葉大学園芸学部教授、2020年4月より現職。日本ユニセフ協会「子どもにやさしいまちづくり事業」委員会委員長。専門は、住民参画のまちづくり、都市計画、農村計画等。
東急子ども応援プログラムの選後総評
第2回目となる本「東急子ども応援プログラム」は2021年7月より公募告知を開始し、同年9月1日から15日の間に応募の受付を行い、その結果、60件の応募が寄せられた。応募書類を5名の選考委員が読み込み、募集要項記載の選考基準を基に、それぞれ推薦案件を選出した。2022年1月6日に、東急株式会社本社会議室にて選考委員5名が対面で集まり、選考委員会を開催した。選考委員は新規案件には①趣旨との適合性、②子どもの視点、③実現可能性、④地域性、⑤継続性、継続案件には⑥発展性を加えて、これらの選考基準ごとに3段階の評価をして、総合評価もつけてある。その各選考委員の評価を重ねて、上位の順からの採択を基本に、討議の末、全体の総額1,000万円の枠内に収まる案件を選出した。
その結果、新規案件9件、継続案件3件が選出された。
選考委員の多くが高い評価をつけた案件もあれば、評価が分かれる案件もある。議論は、その評価の分かれる当落線上の応募案件の中から選び出す討議に時間が費やされることとなった。子どもに関わるさまざまな活動が応募されており、本来なら同一線上で評価できる類ではないので、あくまでも相対的評価ということを理解していただき、選から漏れた活動には、再度、応募企画書の書き方も含めて、再チャレンジを期待したい。
今回の応募は、子どもの貧困問題、障がいをはじめさまざまな困難を抱える子どもたちへの支援活動が目立った。それだけ公行政が対応できていない、隙間の大きさをも物語る。そうした子どもたちへの支援を行うボランティア団体の活動の意義が、応募書類からもひしひしと伝わる。特に外国にルーツを持つ子どもたちの困難な状況を訴え、その支援を行う活動がいくつか見られた。選考委員会でも、日本社会で見落とされがちなこの問題の重要性が議論された。採択案件でみると、新規案件で2件、継続案件で1件が入っている。また子どもの居場所も新規4件、継続1件とテーマでは多いが、不登校の子どもたちの居場所や、子ども食堂、子ども商店会、コミュニティーカフェ、ITなどその具体的内容は多彩である。障がい児サッカー教室というノーマライゼーションに向けた活動も市民活動の発想力、企画力の醍醐味が感じられる。孤立化する育児を支援する訪問子育て支援も公行政では手が届かない点である。また音楽と稲作体験、小麦部など子どもが生産や、創造に関わる活動も生きる力、子どもの社会参画を促すものと期待される。
NPO法ができてから30年以上が経過するが、SDGs達成度において、日本が世界と比べて劣っている点にジェンダー平等、気候変動や、生物多様性とともに、17番目のパートナーシップが指摘されている。市民活動への行政、企業のパートナーシップが発展していない。それは刻々と変化する社会の課題への対応や社会の活力、そして持続可能性へも関わる大きな課題である。市民活動はそうした変化する社会の課題をいち早く捉えて問題提起する。それに呼応するアンテナを公行政も、また企業も求められる。「失われた30年」は給料が上がらないだけではなく、そういう社会の活力、問題解決への仕組みづくりが停滞していることにもある。本プログラムも、パートナーシップへの企業の寄与としてさらに発展することが期待される。
- 木下 勇
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- 岩田 美香
法政大学 現代福祉学部 教授
教育学博士。スクールソーシャルワーカースーパーバイザー。児童養護施設スーパーバイザー。北海道医療大学看護福祉学部専任講師、北海道大学大学院教育学研究院准教授を経て、現職。主宰するゼミの研究テーマは、社会経済的困難を持つ子ども・家族への援助。
昨年度に続き2回目の選考機会をいただきました。私にとって、とても貴重な時間でした。今年度の応募企画書も、地域における子どもとその家族への支援について、自由でしなやかな発想からさまざまな企画が出されており、選考に悩みました。しかし、その一つひとつを読んでいくことも大きな学びとなりました。また、選考委員が集まって審議をした選考委員会では、選考委員それぞれの専門性や立場からの意見を伺うことができ、地域支援の考え方が深まりました。「選考」委員会ではありますが、単にプロジェクトを選抜するのではなく、委員のいずれもが個々の申請プロジェクトをどのようにすれば地域で育てていくことができるのか、という思いで議論が展開され、得難い時間となりました。
選ばれた企画はもちろんですが、助成に至らなかった企画についても、今後のプログラムの発展をお祈りしています。
- 岩田 美香
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- 桑子 敏雄
一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ 代表理事/東京工業大学 名誉教授
専門は哲学、倫理学、合意形成学、プロジェクトマネジメント論。東京工業大学大学院社会理工学研究科教授を経て現職。社会基盤整備に際し、異なった意見や対立している意見がある場合に、行政や市民と共に話し合いを通して創造的な解決へ導く「社会的合意形成」のプロジェクトマネジメントの実践的研究と実際のコーディネートを行っている。元東京工業大学リベラルアーツセンター長。
本プログラムが目指す「子どもたちの安全・安心」は、東急線沿線地域の子どもたちに良好な環境を創造する素晴らしい取り組みと認識しており、選考委員という立場に大きな責任を感じております。
さて、応募いただいたどのプロジェクトも優劣をつけにくいのですが、特に本年度の選考では、コロナ禍が収束をみせない中、ますます厳しい環境に置かれてゆく子どもたちへのまなざしを大切にする団体に推薦の焦点を絞りました。
選ばれたプロジェクトの推進者の皆さまには、これまでの経験を発展させていただくとともに計画に盛り込まれた新たな試みに果敢に挑戦していただきたいと願っております。活動の成果を拝見する機会を楽しみにしております。
併せて、本プログラムの取り組みには、東急線沿線をベースにした個別の活動の振興というだけではなく、これからの時代に求められている「地域のネットワークを活用した活動のネットワークのモデル」として発展することを願っております。
- 桑子 敏雄
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- 原 美紀
認定特定非営利活動法人 びーのびーの 副理事長・事務局長
社会福祉士。子育ての当事者として必要性を感じ、2000年にNPO法人びーのびーのを設立。「地域で共に育ち合う子育て環境づくり」を目指し、親への子育て支援をする場の創出を目的に、育児支援施設「おやこの広場びーのびーの」、港北区地域子育て支援拠点「どろっぷ」「どろっぷサテライト」他、預かり保育や小規模多機能保育事業などを運営している。地域の子育て支援拠点が全国に展開されるモデルとなっている。
本プログラム2年目になる選考委員会は、首都圏今年初の降雪の日で、選考会場の窓外は一面真っ白で、より神聖な時間に感じられました。深々と積もる雪の一方で、選考委員と事務局の方々とは、それこそ全員が心身込めて貴重な応募書類を検討させていただきました。
感染の余波であらゆる活動様式が変容を迫られる中、未来に向けて着実にその一歩を踏もうとしている団体、この状況下でさらに深刻化した課題に立ち向かおうとしている団体など、制限ある中でも子どものために地域を耕す試みを書面一杯に表現してくださった応募ばかりでの選考というのは大変難しいものでした。それでも明言できるのは、活動団体の理念と実現のために創意工夫されている団体代表者はじめ関わる方々の存在そのものが、子どもにとっては地域やまちづくりに使命を持って動くすてきな大人として映るはず……ということです。そんな未来を確実に創っている皆さまと助成を通じて出会えたことに心から感謝しています。
温かみとそれぞれオリジナリティーある視点で書き下ろされている書面から、活動助成でありつつも「活動に専心される『人』」を応援するプログラムであることを再確認できた貴重な時間でした。
- 原 美紀
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- 多田 和之
東急株式会社 社長室長
コロナ禍が長引き、子どもたちは学校でも家庭でも伸び伸び過ごせない状況が続いている現在ですが、応募書類一通一通を拝見する度に、希望が生まれてくる思いがしました。リアルに集まれない制約から生まれたとは思えないような自宅で楽しむ工夫を凝らした活動、子どもたちを支える大人のスキルアップを図る活動、20歳の学生が自身の高校時代の経験から立ち上げた活動など、多様な視点で心のこもったチャレンジばかりで、皆さまの思いに脱帽する一方、選考は大変難しいものでした。お忙しい中、丁寧に計画を立ててご応募くださった皆さまに、あらためて御礼申し上げます。
おかげさまで当社は今年、創業100周年を迎えます。これからも地域の皆さまと共に、幸せに暮らせるまちづくりに取り組んでまいる覚悟です。このプログラムを通じて「子どもたちを応援する温かい思いやりの輪」がさらに広がり、子どもたち一人ひとりにも、活動を進めてくださる大人の皆さまにも、笑顔が広がっていくことを願っています。
- 多田 和之