2024.11.25
リーダーインタビュー Vol.18
よこはまユース山中 梓さん
毎月一度、高校の中にカフェをオープン。
ちょっと楽しい気軽な居場所で、信頼できる大人との出会いを願って
学校の授業、宿題、部活や塾にアルバイト、中には家族のケアを担う子も……。今、全国では、生徒への福祉・生活・教育面などの支援が必要な高校を中心に、校内居場所カフェの取り組みが広がっています。
毎日忙しく過ごしている高校生に、ホッとくつろぎながら思春期のモヤモヤを解消したり、新しい発見をしたりできる、ちょっと楽しい居場所を提供したい。そんな願いを込めて横浜市内の3つの高校で校内カフェを運営する「よこはまユース」の山中梓さんに、活動の内容や取り組みに懸ける思い、これからの展望について伺いました。
はじめに「よこはまユース」について教えてください。
全ての子どもたちが、人とのつながりを通して成長していけるように
私たちは、地域の方や企業、関係するNPO法人などと連携しながら、青少年に関わる社会課題に対応する取り組みを進めている団体です。目指しているのは、全ての青少年が周りの人々から見守られて、人とのつながりの中で成長できる社会をつくっていくこと。青少年自らが、いろいろな体験活動を通じて学んだり、成長したりすることができるような機会を提供する場として、横浜市内で中高生の交流・活動支援のスペースや、校内カフェ、小学校の放課後キッズクラブ、青少年を見守る大人に向けた研修を行う青少年育成センターなどを運営しています。
山中さんが活動に関わることになったきっかけは?
子どもたちを主役に、縁の下の力持ちとして関わる“人にしかできない仕事”
私は愛知の大学を卒業後、自動車メーカーに就職し人事部門に配属され、ものづくりの現場で働く人々を支える立場の仕事をしていました。しかし5年目でコロナ禍になり、世の中にリモートワークやDXが浸透していた中で、“人にしかできない仕事”に携わりたいという思いが強くなり、よこはまユースに転職しました。
私は小学生時代を横浜で過ごしたのですが、その頃に、よこはまユースが運営している青少年研修センターや、放課後の居場所施設を利用する機会があり、こうやって子どもの経験を支えてくれる大人がいるんだなぁという印象が、ずっとどこかに残っていたんですね。この先の未来を生きていく若い人たちと一緒に、いろいろな体験や活動ができる仕事にとても惹かれました。
この業界は、毎年決まって人材採用があるわけではなく、たまたまよこはまユースの募集を見つけたんです。タイミングが重なるなんて、これはきっと転機に違いないと背中を押されて転職をしたところ、よこはまユースでも7年ぶりの採用だったと後から聞きました。
前職は、物を作って売ることに価値を見出す業界でしたが、今いるのは、人と関わることで価値が生まれる世界。主役はあくまで子どもたちで、大人は見えないところで動く縁の下の力持ちなんですよね。そこに生まれる価値は、はっきりと目に見えるものではないので、センスも必要だし、難しさもあります。でもだからこそ、やりがいも感じつつ、日々勉強しながら仕事をしています。
東急子ども応援プログラムの助成対象である、横浜市立みなと総合高校「校内カフェ」とは、どういった活動なのでしょうか。
高校生が信頼できる他者と出会い、関わりながら成長していくために気軽に寄れる居場所
よこはまユースの運営する「校内カフェ」という取り組みは、もともとは2016年に横浜市立の定時制高校でスタートしました。先生でも保護者でもない大人のスタッフとたわいのない話から悩み相談まで気軽にできる生徒たちの居場所として、高校生が地域とつながりながら、卒業後の生き方を考えるきっかけづくりを目指して始まりました。
何となく、小学生や中学生だと地域のみんなで見守りましょうという対象ですが、高校生になると一気に地域から見えなくなってしまいますよね。私たちも地域の中で急に声をかけて「何かやろうよ」というのはなかなか難しいという思いがあり、私たちの方から学校に出向いて、彼らが安心して過ごせる学校の中で、地道に信頼関係を築いていけるような活動ができたらと。
そんな取り組みを知った校長先生からお声がけを頂いて2024年から開始したのが、横浜市立みなと総合高校「校内カフェ」です。高校生たちが校内でゆっくりできる時間をつくろうというコンセプトのもと、月に1回、学校のラウンジを会場に、オリジナルのスイーツや飲み物を無料で提供しています。ふらっと立ち寄って友だちやスタッフと気軽におしゃべりを楽しんで帰っていく生徒もいますし、大学生のボランティアスタッフが進路や勉強の相談に乗ったり、ゲストを招いてイベントやワークショップを開催したりもしています。
ゲストは、よこはまユースとつながりのある方々や、この活動に賛同してくださった団体・企業・ボランティアの皆さんなど、さまざまな方が協力してくださっています。ワークショップの内容は、生徒からリクエストをもらうこともありますし、勉強系やアート系など、ジャンルのバランスを取りながら企画しています。
先生方からも、学校にはさまざまな生徒がいて、いろいろな才能が埋もれているので、ちょっとした体験を積み重ねることで彼らの良いところを引き出せたら、というお話がありました。これまでのワークショップで、黙々と作業に取り組んでいたり、楽しそうにすてきな作品を作っていたりする生徒たちの姿を見ていると、きっかけづくりの大切さを実感しますね。
みなと総合高校は、制服があっても比較的自由で、授業も単位制なので、いろいろなことを自分で選べる環境が整っているように感じますが、生徒たちに話を聞くとみんな「忙しい」と口にします。授業や課題、アルバイト、中には家族のケアを担っている生徒もいます。自由に過ごせる自分の時間があまりないという子も多いので、生活の一部である学校内にこういった空間があることに意味があり、その空間をつくるお手伝いこそ、私たちが今できることかなと。生徒たちの誰もが気軽に体験や交流できる機会をつくり、身近に社会とつながる場所でありたいと思っています。
今後の展望を聞かせてください。
「校内カフェ」を多くの高校生に届けたい。いつか彼らも“信頼できる大人”になってくれるように
校内カフェの取り組み自体は、全国で広がりつつあるものの、定時制の高校をはじめ、生徒の福祉の面や生活面、教育面での支援などが必要な課題集中校と呼ばれるような学校が対象であることがほとんどです。支援の必要性の高さという点からは言うまでもないことなのですが、本当はそういった学校だけではなくて、他の学校や地域の中のいろいろなところに、高校生がホッとできるような、高校生たちを応援できるような場所がたくさんあるのが理想ですよね。その点で、私たちの校内カフェという活動を、地域に、外に、どんどんつないでいくみたいなところも、私たちが果たしていくべき役割なのかもしれないと感じています。
また、応援してくれる企業や一緒に活動する仲間が増えて、社会全体で若者を応援する土壌もつくっていきたいです。みなと総合高校の校内カフェも、今後は在校生や卒業生にスタッフとして参画してもらったりしながら、若者と一緒につくる居場所として持続していけたらいいなと思っています。
校内カフェでは、“大人との出会い”を大切にしています。気軽にカフェを利用することで、いつか、そういえば地域の中で自分たちに関わってくれた大人がいたこと、そういう人を頼ってもいいんだということを思い出しながら、信頼できる他者を増やしていってほしいです。高校を卒業した後は、自分の力で信頼できる人を見つけなければいけないので、カフェを利用しながらその力を身に付けてほしいのです。将来は、彼らが“信頼できる他者”の立場に回っていくような、周りのことを思える大人になってくれたらと。
私たちの団体は、他にもさまざまなボランティア活動をしていますが、みなと総合高校の校内カフェでボランティア募集の声がけをしたら、たくさん応募してくれたんですよ。それもカフェの活動の実りの一つかな、と感じています。普段学校の中で見ている顔とは全然違う、地域の中で活躍する一面を見ることができるのはとてもうれしくて、もっと活動を広げていかなければ、という私たちの原動力にもつながっているように思います。
公益財団法人よこはまユース山中 梓(やまなか・あずさ)さん
中学2年生までの14年を横浜市、その後の14年間を愛知県で過ごす。教師や専門家ではない立場から青少年の育ちを支える仕事に興味を持ち、2020年に自動車メーカーからよこはまユースに転職。現在は横浜市立高校3校での校内居場所カフェの運営に携わる他、地域・学校・企業・団体と連携した青少年の交流や体験の場づくり、活動コーディネートなどに取り組んでいる。