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東急子ども応援プログラム

リーダーインタビュー

2024.09.27

リーダーインタビュー Vol.17

おおたクリエイティブタウンセンター山本 章子さん

モノづくりを通して子どもたちに未来を切り開く力を。
自由な発想やチャレンジを後押しし、非認知能力の向上をサポート

周辺に公園はあっても、遊具が撤去されたり、禁止事項が増えていたり。昔と比べて遊びの多様性は失われつつあります。工作では汚れるものや危険なものが排除され、見本通りに上手に作ることがもてはやされることで、自由な発想や挑戦することに自信が持てなくなっている子どもたちも少なくありません。
工場から出た廃材と、本格的な工具を自由に使って試行錯誤しながらモノづくりを楽しむことで、子どもたちの発想力や感性を育む。モノづくりの街として知られる大田区で、町工場と共にそんな活動を続けるおおたクリエイティブタウンセンターの工場長・山本章子さんに、活動への思いやこれからについてお話を伺いました。

はじめに「おおたクリエイティブタウンセンター」について教えてください。

今年14回目を迎えるモノづくりイベント「おおたオープンファクトリー」がベース

公(行政や中間組織ほか)× 民(民間企業・組合団体・区民ほか)× 学(大学・学校・学生・生徒・専門機関ほか)が連携し、観光とまちづくりと産業を組み合わせて、総合的に社会課題を解決していくことをミッションとした「大田クリエイティブタウン構想」というものがあり、その中で2012年から始まったイベント「おおたオープンファクトリー」が、私たちの活動のベースになっています。観光協会や大学と連携しながら、武蔵新田・下丸子地域にある工場を中心に、年に1回工場を公開して、地域の方にモノづくりの技術や職人と触れ合い、知っていただくイベントで、今年で14回目になりました。

実はここ(取材場所)「創造製作所 くりらぼ多摩川」も、もともと工場だった建物なんです。イベント以外の残りの364日の間、日常的に地域とモノづくりをつなげられる場所、「モノづくりのまちづくり」を行う地域交流拠点という位置付けで立ち上げ、私たちの活動拠点にもなっています。

「おおたオープンファクトリー」の実行委員のメンバーが中心となり、法人化したのが2017年。地域の人たちにモノづくりを知ってもらうことはもちろんですが、工場にとっても、地域以外にも新たなビジネスのつながりを見つけたり、改めて自分の工場の話をする機会をつくることで、人材育成やモノづくりの街の底上げにつなげられるような取り組みを行っています。
具体的には、「おおたオープンファクトリー」の他、「くりらぼ多摩川」の運営、工場廃材を創作活動に生かす取り組み「SCRAP(スクラップ)」、日替わりの「くりらぼメイト(=くりらぼのお友達)」による自由工作教室、大田区内の工場見学やモノづくり体験型プログラムなど青少年向けの「ファクトリップ(FACTORY×TRIP)」などがあります。

山本さんはどのようなきっかけで活動に関わることになったのでしょうか。

まちと、町工場と、子ども。大好きなものをつなぐことで新しいものが生まれる楽しさ

大阪在住の学生時代から、子どもたちの育ちをサポートするワークショップや、人やもの・まちをつなぐ活動に携わってきた経験が今に生きていると語る山本さん

私はもともと大阪でまちづくりの仕事に携わっていました。大学でもまちづくりを勉強したので、ずっと続けたい大好きな仕事だったのですが、夫の仕事の都合で東京に来ることになり、当時はまだ遠くから仕事をするのは難しい時代だったので、仕事を辞めて2013年に引っ越してきました。ちょうど子どもが生まれたばかりで、子育てが大変だったり、友だちも、助けてくれる人もいない中で、ちょっと自分を見失いかけた時期があって。以前のように、まちとつながるような仕事がしたいなぁと思っていたところ、今一緒に活動しているメンバーと縁があり、2015年から活動に参加するようになりました。

直接関わっていたわけではありませんが、以前勤めていた会社では東大阪で住工共存のまちづくりをするプロジェクトを手掛けていたり、東大阪で中学生を対象に職人の熱い思いを聞いて学ぶというプログラムを実施していて、それを近くで見聞きしていました。加えて、私の祖父も町工場を経営しており、油まみれの祖父と一緒におやつのアイスを食べた思い出もあるほど、町工場が身近な存在だったことも、すんなりと活動に入れたベースになっているのかもしれません。

「くりらぼ多摩川」は、職人さんたちの場として活用したいという思いで立ち上がったのですが、私が活動に参加したタイミングあたりから、子どもたちを対象にした活動もより色濃くなってきました。私も子育てをしていますし、一番大事にしたいと思っていた部分でもあるので、どんどん面白がって子どもたちも活動に引き入れ、いい具合にミックスするうちに、今のような形に進化してきました。一緒に活動しているみんなで「最初はこんな風じゃなかったのにね」なんて言い合っているんですよ(笑)。

東急子ども応援プログラムの助成対象になっている「Let’s play!! SCRAP#PARK」は、どういった活動なのでしょうか。

ゴールの決まった工作ではなく、モノづくりそのものを楽しみ、さまざまな力を育む時間

「Let’s play!! SCRAP#PARK」は、工場から譲り受けた廃材(SCRAP)を子どもたちにそのまま遊びに使ってもらう、子どもたちの発想を大事にしたプログラムです。見本通りに上手に作ることではなく、自由に作り、試行錯誤する経験を積むことで、非認知能力を高めることを目指しています。
会場には大きなコンテナに入っているものから細かいものまで、廃材をずらっと並べ、子どもたちはそこから宝探しのようにジャラジャラと好きな材料を探し出して、自由に工作しています。本物の道具、のこぎりや穴を開けるドリル、グルーガンなど、家だとちょっと危ないからと大人が制止したくなるような道具も用意してあり、何も作らなくても、加工を経験するだけで楽しめるようにしています。
子どもたちにとって初めて目にする材料ばかりだと思うので、何かに見立てたり組み合わせたりすることで起こるひらめきなど、初めての経験・発見を大事にしながら活動しています。

もともとは自由工作の目的を持たせて、夏休みの宿題のお手伝いというイメージで、工場のことを知ってもらうために始めたのですが、活動を通してさまざまな人が集まり、いろいろと教えていただく中で、廃材を利用した工作が、子どもたちが今抱える課題や社会に立ち向かっていく力を身に付けることにつながることが分かってきました。そこで、子どもたちの興味ややりたいことを尊重しながら、大人は困った時に手を差し伸べられる距離感で見守る、というスタンスのプログラムになりました。

「SCRAP」の工作は、廃材を「組み合わせる」とか「見立てる」といったことが特徴です。目指す完成図があるわけではないので、毎回、大人ではとても思い付かないようなユニークなものが出来上がっていきます。そういった作品ももちろん面白いですし、何より子どもたちがすっきりした顔で帰っていくのが印象的です。

工場廃材は1g1円で量り売りしており、持ち帰りも可能。「Let’s play!! SCRAP#PARK」では、これらの素材を自由に使って工作が楽しめる

お母さんに連れてきてもらって、帰りのお迎えの時に手ぶらだった子がいて、お母さんは、「あんた何作ったの?」とちょっとびっくりしていて。でもその子はのこぎりを使って、ずっといろいろなものを切っていたんです。切って切って切ってすっきり、みたいな。目に見えるゴール=完成品はないけれど、私たちにとってそれはとてもグッドで、今までやったことのない、のこぎりを使って気が済むまで切り続ける、みたいなこともオッケーと言えるのが大切だと思っています。
最初は何をすればいいのか困惑していた子も、「好きなものを探してみたら」と言われたことをきっかけにどんどん作り始めます。できないと思っていた自分でも、実は面白いことを見つけられる。そんな風に熱中していく姿やすっきりした顔など、子どもたちの中に見える変化こそ、私たちが起こしたい現象なのです。

今までは作ることを楽しんできたので、これからはもう少し材料自体を見る力、「素材遊び」と呼んでいますが、素材を観察しながらどんなものなのかを感じるところから体験してもらえるよう発展させていく予定です。例えば、気になるものを持ってきて、顕微鏡で見てみたり、音を鳴らして聴診器で聞いてみたり、接着剤を使わずに積み木的につなげて遊ぶとか、ゲームを作るとか。そういった観察と遊びづくりができればと思っています。

今後の展望を聞かせてください。

もっと多くの子どもたちに、モノづくりの場を開き、その楽しさを体験してもらいたい

工場の廃材、SCRAP自体は、大田区にはあって当たり前の、みんながすぐに手に取れるような価値のある材料として育ってきたように感じています。さらに広く行き渡らせられるよう、今届いてない人にもしっかり届けていきたいと思っています。

そのためには、より多くの子どもたちにSCRAPを使ったモノづくりを体験してもらうのが理想なのですが、どうしても私たちの今いる場所は狭いし、特別感のあるイベントになってしまっています。もっと身近でここでしかできないこととして日常化するためには、やはり資金も必要ですし、場所も必要です。できるだけこの地域で、モノづくりに近い場所でやりたいという思いもあります。

そもそも「くりらぼ多摩川」というのは、まちづくりとモノづくりを組み合わせた活動名であって、この場所だけが「くりらぼ多摩川」とは考えていません。今の形、仕組みが少しずつできてきているので、他の場所でも、こういった子どもたちの場所、モノづくりの場を開いていきたいですね。

また、ここでは日替わりの「くりらぼメイト」によるワークショップなども開催されていますが、みんなスタッフとしてやっているのではなくて、この場所を自由に使っていい代わりに、オープンらぼとして人が自由に出入りできるようにする、という仕組みで運営されています。まさにみんなでつくる場所になっていて、その時その時で理想は少しずつ変わりますが、今のところみんながハッピーなバランスで取り組めているので、それを維持しながら、良い感じに発展していけたらと思っています。

一般社団法人おおたクリエイティブタウンセンター 工場長山本 章子(やまもと・あきこ)さん

大阪府大阪市出身、東京都大田区下丸子在住。大学でまちづくりを学ぶ傍ら、学生時代から、劇団が主宰する子どもたち向けのワークショップの運営などのアートマネジメントにも携わる。卒業後は民間企業の企画提案営業などを経て、民間企業にてまちづくりのプロジェクトに従事。東京への転居後、「おおたオープンファクトリー」への参加をきっかけに、現在は工場長として、「くりらぼ多摩川」の運営やワークショップ、オープンファクトリーの企画運営などを行っている。

一般社団法人おおたクリエイティブタウンセンター

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