2021.03.29
リーダーインタビュー Vol.1
街カフェ大倉山ミエル鈴木 智香子さん
“主体的な参加”の先にこそ、地域の豊かな暮らしがある。
街カフェ運営10年、コロナ禍で再確認した思い
多世代が気軽に集まり交流できる地域の居場所を創りたい―― 。そんな思いから2010年、大倉山の街にコミュニティカフェとしてオープンした「街カフェ大倉山ミエル」。代表の鈴木智香子さんは、カフェの運営に加え、子どもと地域をつなぐためのさまざまな活動にも情熱を注いできました。2020年に「東急子ども応援プログラム」に応募された活動では、子どもたちや親御さんたち自身に、地域とつながるための企画を発案し、実際に取り組んでもらう活動を進めています。
背景にある思いや狙い、実施状況を聞きました。
はじめに「街カフェ大倉山ミエル」について教えてください。
多世代が気軽に交流できる“場”を創る
大倉山ミエルは、2010年に地元・大倉山商店街の養蜂事業「大倉山はちみつプロジェクト」のアンテナショップとして誕生しました。フランス語で「はちみつ」を意味する“ミエル(miel)”が名前の由来です。
私たちの主な活動は、多世代が誰でも気軽に集まり交流できるコミュ二ティカフェを運営すること。あとは地域情報の発信。そして、地域のハブとしての活動です。「活動をつなぐ活動」と私たちは呼んでいるのですが、この辺りにはいろいろな活動団体さんがいるので、そうした活動をつなぐことで人々の出会いや新しい活動が生まれ、安全安心でにぎわいのある地域になっていくことを期待しています。
鈴木さんが目指しているのは、どんなことでしょう?
子育て世代の「社会的孤立」を解消したい
私たちが特に重視しているのは「社会的孤立」の解消です。この地域は核家族が多く、周囲の人たちと出会い、支え合える場所がとても少ないのが現状です。このためそれぞれが分断されていると強く感じます。
例えば、子育て中のお母さんだったら、そのコミュ二ティにいるけれど、隣にいる障がいを抱えているお子さまを持つ親御さんたちのコミュ二ティとは全く接点がない。また、おじいちゃん・おばあちゃんなど世代が違うと、近所に住んでいてもそもそも出会う機会すらありません。
コミュ二ティに入りたくても窓口が分からなくて、孤立するケースもあります。これまで都心の会社で、フルタイムで働いていた人がふと産休に入ったら、地域で知っている人が誰もいない。これから一人で、この子をどうやって育てていけばいいのだろうかと、不安を抱える人がたくさんいます。
私たちが地域と連携しながら進めるいろいろな活動を通して、こうした孤立や分断が少しでも解消されればと考えています。
活動を始めてから10年が経った今も、親御さんたちの孤立は決して改善されていないように思いますが、それでも、例えば「子ども食堂」の活動が一般に知られるようになったり、食糧をシェアする「フードドライブ」や「フードパントリー」といった活動についても関心が高まってきました。地域のつながりが大事で、そういうことをみんなでやっていこうね、という意識は増していると感じます。
大倉山ミエルを始める前はどんなことをされていたのですか。
仲間との地域活動からの気付き
当時、私自身も子育てをしながら、地元の女性5人ほどで「大倉山文化村」と名付けた地域活性化活動を行っていました。
「大倉山文化村」は、カフェを運営している人、音楽に携わっている人、アロマテラピーの先生、カラーコーディネーターの先生、そして子どもたちと「公園遊び」をしている私が一緒に、さまざまな地域活動をするというもの。例えば大倉山記念館で、アロマをたきながらピアノの先生がコンサートをして、子どもたちを公園で保育するといった活動をしていました。この取り組みを知った商店街の人たちから、「はちみつプロジェクトのアンテナショップをやってみませんか」とお声掛けいただいたのです。
大倉山文化村やアンテナショップの運営を通じて気付いたのは、「私たちではなく、参加する人たちにやっていただく」ことの大切さです。参加する人たちが活動の計画を立てる段階から自主的に関わることで、「自分たちで地域を変えていける」ことを一人でも多くの人に実感してほしい。そこから社会参画の第一歩を踏み出してもらえればうれしいですし、そうした積み重ねが孤立の解消につながっていくと強く思うようになりました。
今回「東急子ども応援プログラム」へは、どのような思いで応募されたのでしょう?
「子どもと地域をつなぐ」ことへの思い
これまでの活動を通して大倉山ミエルは、少しずつ多世代の集まりが形成され、親も子どもも気軽にいつでも寄れ、支え合える場所になりつつあります。
その状況をさらに発展させるため、今度は子どもたちや親御さんに自主的に地域とつながる企画を考え実行してもらおうと、「コミュニティカフェを基地に『子どもの自由な居場所』を子どもたちと作る」プログラムを考え、「東急子ども応援プログラム」に応募しました。
新型コロナウイルス感染症流行の影響も大きく、当初の予定から変更を余儀なくされたことも多かったと思います。実際にはどういった活動を進めているのでしょうか?
日常的に行っている二つの取り組み
当初は20人ぐらいが集まる活動を中心に行いたいと考えていましたが、一度に集まるのは5人以内にして、実施する回数を増やし、対象者の異なる二つの活動を日常的に行うことにしました。
一つが「ちびっこミエル」です。毎週火曜日と木曜日に、乳幼児と親御さんが集まる活動です。例えば、公園の落ち葉やドングリを使った工作をインストラクターさんに指導してもらう「森のようちえん」など、親子で学び遊んでもらう取り組みをしています。これは、ママたちが自主的に企画運営をするようになりました。
二つ目は小学生高学年を主対象とした居場所活動「放課後ミエル」です。毎週月曜日と水曜日に、小学生の子どもたちにミエルに自由に来てもらい、おやつを食べたり、おしゃべりをしたり、親御さんや学校から解放されて自由に過ごせる場所を提供しています。
YouTubeで動画を作りたいという子どもたちの発案から、映像制作のプロをお招きして、子どもたちに地域の動画を作ってもらう「子どもジャーナリスト養成講座」も実施しました。その成果は、大倉山記念館で2020年11月に行った「子どもと考える子どもの自由な居場所」展での展示にもつながりました。
「東急子ども応援プログラム」での半年間の活動の成果を教えてください。
コロナ禍、期せずして参加者が大幅増、自主的な活動が始まる
コロナ禍で育休に入った親御さんは、出産された後、家族以外の誰とも話す機会が持てずにいたり、経済面や育児の不安から、地域とのつながりを強く求めている人がたくさんいます。そうした親御さんがミエルの存在を口コミで知り、どんどん参加してくれるようになり、LINEグループのメンバー「ミエルベビー部」は120人を超えるほどになりました。よちよち歩きの子どもたち自身に歩いてもらって公園まで行こうといった、いわゆる「まち保育」的な取り組みや、ミエルの活動をより良くするためのアンケートをして、結果を分析するなど、自主的な活動が生まれて盛り上がっています。
こうした活動の活性化は、今回の「東急子ども応援プログラム」の支援があったからこそ実現できたことです。助成を受けていたことで、ミエルベビー部が立案した企画に躊躇なくOKを出すことができ、皆さんの自発的な行動を後押しできています。
今回の取り組みを通じて、スクールソーシャルワーカー(※)とつながるなど、新しい展開が出てきたと聞きました。
プログラムを機に活動のさらなる広がりも
2020年4月に横浜市のスクールソーシャルワーカーが増員され、それを機に、スクールソーシャルワーカーさんが地域に出掛けるようになり、私たちのところにも来訪してくださり、つながりができるようになりました。
来てみると、地域に「放課後ミエル」のような学校でも家でも塾でもない自由な居場所があると驚かれたようで、不登校のお子さまの居場所にならないだろうかとか、経済的に困っている家庭があるからお弁当を届けられないかなどといった持ち込みがスクールソーシャルワーカーさんから来るようになりました。
さらに、不登校や発達障害などのお子さまを持つお母さんが近くにいることを知った近隣の親御さんたちが、「一緒に話をしたい」と集まり、「みかん会」という集まりができました。子育てはいつも「未完」成、一緒に「みかん」でも食べながらゆっくりお話ししましょう、というこの会によって、親御さんたちの新たなつながりができたのです。今回の「東急子ども応援プログラム」を通じて、こうしたさまざまな活動の広がりが見え始めています。
※教育の分野に加え、社会福祉に関する知識を持つ専門家。児童・生徒が置かれている学校・家庭・友人関係・地域などの「環境」に働きかけることで問題解決へ導く。カウンセラーが心の中の問題に向き合うのに対し、ソーシャルワーカーはその人の外(環境)で起きている問題に向き合う。
最後に今後の展望をお聞かせください。
地域活動をモデル化し横展開へ
ミエルベビー部が盛り上がっていますから、SNSを上手に使いながらさらに活動を活性化したいです。
また、地域の居場所づくりや地域活動を活性化する「小さな居場所がつながる」モデルを作りたいとも考えています。
家から歩いて行ける距離に、誰もが気軽に立ち寄れる地域の居場所があり、そこで人と人の交流が生まれ、まちづくりの活動がつながっていく。住んでいる人たちが主体的にそうした活動に参加することで、人の心も街もこれまで以上に豊かになっていくと思います。
そんな未来を描きながら、今後は神奈川県の他エリアでも、地域の居場所や活動を普及する仕組み作りに取り組んでいこうと考えています。
NPO法人 街カフェ大倉山ミエル理事長鈴木 智香子(すずき・ちかこ)さん
山口県岩国市生まれ。多摩美術大学建築学科を卒業後、大手建設会社に入社し、一級建築士の資格を取得。北海道札幌市で、公園遊びの会「旭山公園キッズ」を立ち上げたのを機に、まちづくり活動に参加するように。
2006年に横浜市港北区で、ボランティア団体「公園遊びの会 おるたん」を設立。2010年には、コミュ二ティカフェ「街カフェ大倉山ミエル」を開設した。
大倉山ミエルを運営する傍ら、市民による自発的なまちづくりを支援する「NPO法人 横浜プランナーズネットワーク」に参加。また、地域コミュニティの活動支援を行う「認定NPO法人市民セクターよこはま」で副理事長を務めるなど、さまざまなまちづくり活動を続けている。